春になったと思ったら、いきなり夏日です。トライアルGP日本大会はちょっとしか暑くなくて、よかったよかった。

黒山、2連勝

08九州黒山

 全日本選手権第2戦は、九州鹿児島の錫山トライアルランドにての開催。
 鹿児島のトライアルパワーの総力を結集して開催されているこの大会は昨年に続いての開催となる。
 大会は、なんとか試合中には大雨が降ることなく、しかしときどき降る小雨が路面コンディションを悪化させてライダーを苦しめた。
 国際A級スーパークラスは黒山健一が小川友幸に3点差で勝利。開幕2連勝を飾った。

08九州小川友

2位の小川友幸

 セクションは、配置は昨年とほぼ同じ。設定は微妙に変化があったようだが、全体的には昨年同様といっていい。コンパクトな会場の中に、さまざまなコンディションのセクションが含まれて、トライアルの醍醐味をくまなく味わうことができる。観戦には最適、しかも、ライダーからも走りごたえがあるということで、好評の会場である。今回は、奥の沢に向かう観客通路に、ていねいな遊歩道が建築されていた。主催側の努力には敬服。
 それが功を奏して、国際A級スーパークラスの恒例となっている第1セクションでの長い待ち合い合戦はなかった。待ち合い合戦が楽しい理由もあまりないが、セクションは変化があったほうが、ライダーには緊張感が生まれる。ロケーションに限界もあって、セクションに変化をつけるのはむずかしいものだ(この点、何年も同じ会場で開催されている関東大会は、コースの設定もセクションの設定も、毎年変化がつけられていて感心する)。
 真っ先にトライしたのは三谷英明。三谷は去年は国際A級を走ったから、スーパークラスの走りごたえは知らないはずだが、果敢にトライして1点。続いて坂田匠太が華麗にクリーンする。「去年もここだけはよかった」とマインダーのお父さんが苦笑いするも、その走りは全ライダーの中でもひときわ美しかった。黒山健一や小川友幸はもちろんくりーんしているわけだが、黒山は一気に登ろうとした岩の手前で一瞬躊躇し、ラインを変えてクリアするなど、少しだけひやっとするところもあった。坂田のトライは、完璧だった。
 坂田のあと、小森文彦が1点で通過、田中善弘が2点で走り抜けたあと、黒山、小川友幸、野崎などがクリーン。開幕戦では滑り出しのセクションをことごとく失敗したイタリア帰りの小川毅士が、タイミングをまちがえラインを修正しながら時間ぎりぎりでクリーン。このセクションで5点となってしまったのは二人、井内将太郎と尾西和博、そして本来ならトップに切り込んでいくはずの田中太一だった。
 2セクションは滑る泥と大岩。ここは井内と尾西が3点で抜け、田中善弘が2点、田中太一が1点で通過した。黒山、小川友幸、野崎、小川毅士の4人はクリーンだ(トライアルに詳しい人にはいまさら説明の要はないけれど、トライアルのトップクラス、国際A級スーパークラスには小川友幸と小川毅士、田中太一と田中善弘と、小川さんと田中さんがふたりずついる。さらに、小川友幸のマインダーは田中裕大、小川毅士のマインダーは田中裕人と、田中さんがいっぱい。さらに尾西和博のマインダーは小川伸字さんと小川勢力もまけていない。このうち、裕大と裕人は兄弟だが、その他の小川さんと田中さんに血縁関係はない。昔々、トライアル界には山本昌也さんという5年連続チャンピオンがいた。今回MFJのお仕事でセクション査察をしていたのがその昌也さんだが、ライバルに山本弘之さんがいて、当時のトライアル委員長は山本隆さんといって、その息子の明さんも国際A級だった。トライアルには同姓が多い。黒山健一の周囲には一郎さん、二郎さん、和枝さんと黒山さんが多いが、これはみなご家族だから、偶然ではない)。
 第3セクションは、国際B級には最難関セクションとなったが、スーパークラスには逆にクリーンの出しやすいセクションとなった。田中太一、田中善弘、尾西がこの日初クリーン、もちろん黒山、小川友幸、野崎、小川毅士もクリーンだ。
 一転、トップライダーが減点を刻みはじめたのは、次の第4セクションからだった。第4は豪快なヒルクライム。途中に段があって、ここで失速して登れない。段を避けた野崎が3点、うまく段に添わせた小川が1点で通過したが、さらに黒山が見事なクリーン。その他はみな5点となって、クリーン合戦はここまで。黒山が1点だけリードを奪うことになった。
 ほぼクリーンセクションだった第5セクションをはさみ(それでも、1ラップ目に野崎は5点となった)第6セクションは沢を降りていった大岩盤。つるつるの一枚岩盤を登っていくダイナミックなセクションだが、小川友幸に言わせると、ここもクリーンすべきセクションとのことだった。しかし実際には黒山も小川友幸も、ここをクリーンできたのは3ラップ目のみ。そしてこの二人以外は、野崎と小川毅士と三谷英明が1回ずつ、田中太一が2回アウトしただけ。錫山の森の奥のダイナミックセクションは、やはり手ごわかった。
 第7セクションは、さらに険しかった。1ラップ目に井内が3点で抜けたときには明るい兆しもあったが、井内はときどきこんなふうに超難セクションを真っ先に抜け出てくる。その後、野崎と黒山が1点で出るも、抜けられたのは1ラップ目のみ。この第7に関しては、1ラップ目にクリーン、2ラップ目に3点で抜けた小川の一人勝ちだった。
 二人のトップ争いに関してみれば、大きな勝負どころはこのふたつといってよかった。小川は2ラップ目の第6セクションを1点で抜ければ結果論として優勝だった。しかし小川はこの時、クリーンをしようと考えた。
「追う者の心理として、1点で確実にというより、クリーンをして挽回したいと考える。試合をリードされてしまうと、こういうミスが出る」
 黒山は小川との戦いを「小川さんが本調子だったかどうかはわからないし、なんというかわからないけど、お互いに、かなりレベルの高い戦いができたと思う」と振り返った。ふたりとも、5点はふたつずつ。クリーンが24で同じ。スコア的にも、ほぼベストに近い。こういうときに勝てたというのは、黒山の今シーズンを占う点で、大きな意味を持ってくるにちがいない。
 さて、序盤に調子よくクリーンを重ねた小川毅士は、1ラップ目を終えたところで野崎にたった1点だけリードしていた。この日は、いつもの3位争いのメンバーである田中太一が不調で、1ラップ目は田中善弘にポジションを奪われて6位に甘んじてしまっていた。毅士にすれば、野崎を攻略して3位を獲得する大きなチャンスだった。しかし2ラップ目以降、野崎の減点に対して毅士はスコアを押さえることができない。前回、序盤に緊張して不本意な失敗を繰り返した毅士だったが、今回はそこはクリア。されど表彰台は、今少し遠い。

08九州野崎

3位の野崎史高

 野崎は、3位争いの勝利より、トップ争いができなかったことを課題とする。3位が指定席となって、その座を狙われるようではいけないのだ。しかし今回の野崎は、ほんの1週間前にぎっくり腰をやってしまって、歩けない状態。下見をするたびに苦痛が走った。2ラップ目以降は、下見をせずに腰を温存することで、腰が痛いなりの自分のペースを築くことに成功した。そんなわけで、本調子とはほど遠いが、その状態で3位を得たというところには、一応満足していると語った野崎だった。
 野崎が3位に滑り込んだというなら、田中太一は5位に滑り込んだといったほうがいいかもしれない。結果的には20点近い差をつけはしたが、1ラップ目の5位は田中善弘に奪われていた。ウェットコンディションに苦手意識がある模様で、その克服には乗り込み以外にも課題がありそうだ。トップ4人が3ラップともクリーンした第1セクションで2度の5点があるなど(第1だけで見れば、太一のスコアは最下位に近い)、太一の実力からは考えられない失点が多いだけに、その復調は簡単なような気もするし、それだけにむずかしいのかもしれない。
 6位にはなかば指定席的に井内将太郎が入った。体格の通り、線の細いライディングを見せるときもあれば、一転、持ち味の豪快な走りを見せたり、強引にマシンを押しだすパワーも発揮する。ポテンシャルが全セクションで発揮されれば結果も変わってくるのだが、次のトライはどんな井内がみられるかにわくわくできるのも、今の井内の魅力。
 その井内と1点差は田中善弘。昨年までの成績からすると上出来。だがもともと善弘は、藤波貴久をライバルとし、黒山や小川友幸と育った天才ライダーだ。今はサンデーライダーとして試合を楽しむが、やはりライディングセンスは並ではない。チームを変わって、その実力が垣間かたちになるようになってきた。善弘の辞書には神経戦という単語はなさそうなので、ラップを通して追っかけをしてみたい選手のひとりでもある。
 8位から11位までは、4人が同点という結果になった。今回は尾西和博に元気がなく最下位。前回最下位に甘んじた小森文彦が9位につけた。トップの緊迫した戦いとは別に、彼らのセクションとの闘いも、現在のスーパークラスのハイライトのひとつかもしれない。
 さてトップ争い。両陣営は、今回は減点数を把握して戦っていた。3ラップ目の第2セクションで黒山が1点とってからは、両者の差は3点。3点差は一発5点があればひっくり返るから、まったく油断はできない。しかしきっちり走れば、トップの二人にとって、森の2セクション以外は充分クリーンが可能だ。森での戦いを終えたところで、決着は7割方ついていたといってもいい。
 黒山は語る。
「開幕戦で優勝はしたけれど、実は大事なのは、今回だと考えていました。第1戦で優勝しても第2戦で取り返されたらランキングは振出しに戻る。ここで勝って始めて、ランキング争いをリードできると。だから今日は勝たなければいけないという気持ちで、ずいぶん緊張していました。案の定前の晩は寝れなくて、夜中の3時に二郎くんを叩き起こして冷蔵庫のコンセントを抜かせたました。冷蔵庫のブーンという音が気になって、寝れんかったくらいです。2ラップ目くらいまで、緊張はとけませんでしたね。さすがに3ラップ目になると、時間が少なくなって忙しくなったので、それどころではなくなりましたけど。それと、雨の試合でしばらく勝てていなかったので、雨の中で勝てたというのがうれしかった。そういうわけで、優勝したという以上に、今日はいろいろとうれしい要素のある勝利でした」
 次は黒山の地元猪名川。前回から一転、チャンピオンのライディングを取り戻した小川友幸が、勝利の方程式を取り戻すことになるのか、それとも黒山がこのまま独走するのか、あるいは他の誰かが出てくるのか。近畿大会は、お楽しみだ。

08九州毅士
08九州太一
08九州井内
08九州善弘
08九州坂田
08九州小森
08九州三谷
08九州尾西

国際A級スーパークラス、4位から11位までの各選手。左上から、4位小川毅士、5位田中太一、6位井内将太郎、7位田中善弘、8位坂田匠太、9位小森文彦、10位三谷英明、11位尾西和博



●国際A級●

08九州野本

 野本佳章が、国際A級初優勝を果たした。
 野本は1988年生まれ。お誕生日が2月5日だから、20歳になったばっかりだ。2004年に国際B級ランキング2位で国際A級に昇格。昇格第1戦で6位になって気を吐いたが、以後の飛躍は4年目の今回を待たなければいけなかった。毎回、光るところを見せるも、試合を通じて好結果を残せず、ポイント圏外に順位を飛ばすことも多かった。2005年は緒戦の6位が最上位で7戦中3戦でポイント獲得。2006年は7位が最上位で、8戦中3戦でポイント獲得。2007年になって、ようやく全戦でポイントを獲得したが、最上位は8位と、デビュー大会の成績を上回れないでいた。2008年も、開幕戦真壁は9位。その才能は開花しないままだった。
 この日の野本は、いつもとは戦い方がちがっていた。1ラップ目は11点を失点して11位。このまま終わればいつもの野本ペースだが、2ラップ目を1点ふたつの2点で回った。これで一気に4位にポジションを回復した。そして本領発揮が3ラップ目立った。野本は、この日唯一オールクリーンでラップを回り、2ラップ目までトップにつけていた本多元治に1点差で初優勝を達成したのだった。
 実は野本は、実の兄をつい先日不慮の事故で亡くしたばかり。突然の家族の死に、家族全員が沈みきっていた中での九州大会参戦。「おれがなんかしなければ」という思いがあった。兄のために、家族のために、眠っていた才能がはじけた。
「今まで、調子がいいときも悪いときも、運のせいにしていた。調子がいいときは運がよかったと考えたし、悪いときも運が悪かったと片づけていた。でもこういう状況になって、運だなんだといっていられなくなった。なにがなんでも自分で結果を引き寄せないといけないと思い、クリーンを自分で勝ち取った。兄の死を機が、大きな転機でした」
 西元良太の初勝利に続いて、MFJのトライアルアカデミーで講師をしている二人が相次いで初優勝をとげたことにも触れて、アカデミーの活性化にも期待する。野本が勝ち方を覚えてしまったら、ライバルには手ごわい存在になるにちがいない。

08九州本多
08九州柴田
08九州西元
08九州佃
08九州岡村
08九州斎藤
08九州小野
08九州永久保
08九州西
08九州宮崎
08九州砂田
08九州永久保
08九州徳丸
08九州藤巻

国際A級、2位から15位までの各選手。左上から2位本多元治、3位柴田暁、4位西元良太、5位佃大輔、6位岡村将敏、7位斎藤晶夫、8位小野貴史、9位永久保恭平、10位西和陽、11位宮崎航、12位砂田真彦、13位尾藤正則、14位徳丸新伍、15位藤巻耕太

 それにしても、初優勝が二人続いた今年。チャンピオン成田匠と、小森文彦、三谷英明のふたりが国際A級スーパークラスに移行したから、確かに勝ちやすくなってはいるのだが、去年までの4位以下がそのままスライドして表彰台を争っているという展開とはちがう。目の上のたんこぶである大ベテランがライバルでなくなったことで、勝利がより現実になってきたのがモチベーションに影響を与えているのではないか。ちょうど、世界選手権のユースやジュニアクラスの新設が、若手ライダーの掘り起こしに貢献しているように、国際A級クラスも若手が才能を磨き上げるクラスになると、今後に期待ができるクラスにつながっていくだろう。
●国際B級●

08九州上福浦

 復活組ではかなりの大御所、上福浦明男が開幕戦の逆転負けから一転、見事な逆転勝利を飾った。
 上福浦にとっての鬼門は、滑りやすい登りのターンにはい回る木の根っこだった。ここで1ラップ2ラップともに5点。さらに深い森の第6や第7にも5点があって、1ラップ目も2ラップ目も10点オーバー。1ラップ目を10点、2ラップ目を6点とした前回優勝の小野田理智に10点近い差を開けられて3位のポジションにつけていた。
 しかし3ラップ目、上福浦はそれまでの課題を克服した。小野田の走りを観察し、参考にもした。鬼門の第3セクションは、初めて3点で走り抜けた。そしてここ以外のすべてのセクションをクリーンし続けて、3ラップ目は減点3。3ラップ目に減点を増やしたライバルを尻目に、見事な勝利を飾った。
「1ラップ目は、狙ったことがことごとく裏目に出て、前半戦は苦しかった。2ラップ目は別の攻略法にトライして、それが3ラップ目にようやく結果となって挽回できました。そういう試合への取り組みをしながら走れたことが、今日の大きな収穫で、それが楽しかった。仕事を持って、充分な練習ができない人は多いと思いますが、勝ち負けではなく、自分のトライアルがうまくいくかどうかが大事なんじゃないか。チャレンジした結果が5点だったり3点だったりするわけで、それを受け入れて楽しむことが大事なんじゃないでしょうか」
 勝利の感想を尋ねれば、トライアルについても重みのあるコメントをしてくれた。
 今回10位には、地元鹿児島の西和陽が入った。地元ゆえに地形やコンディションには慣れている強みはあるが、国際A級はそれだけで上位に入れるほど層が薄くない。1ラップ目は5位、2ラップ目は8位。この結果が、他の全日本にも好影響をもたらすか、さて。

08九州小野田
08九州松浦
08九州大西
08九州安岡
08九州中山
08九州前間
08九州大田
08九州遠藤
08九州橋口
08九州平井
08九州中田
08九州木下
08九州後藤

国際B級、2位から15位までの各選手。左上から、2位小野田理智、3位松浦翼、4位大西貢、5位安岡護、6位中山徹志、7位前間元気、8位松本龍二、9位大田裕一、10位遠藤博文、11位橋口智彦、12位平井賢志、13位中田幸祐、14位木下裕喜、15位後藤研一

 3位には、前回6位で素晴らしいデビュー戦となった松浦翼が入った。超ベテランの二人に続いて若手勢のリードをとっている。
 松浦について、これまで全日本での出走記録はなかったが確証がなかったので「無得点圏から一気に6位」と書いてしまったら、竹屋泰さん(A級竹屋健二選手のお父さん)から「初挑戦で6位なんだからはっきりさせてちょうだい」とにこにことしかられた。すいません。なんでも、トライアルを始めてからまだ3年目だそうだ。急成長の松原には、今後も注目だ。竹屋さんの指導の賜物か(と書いておくから許してくださいと約束したのでした)。
 3位松浦は熊本、4位大西貢は愛媛、6位中山徹志は長崎、7位前間元気は福岡と、5位に入った安岡護(兵庫)をのぞいては九州四国のライダーが大活躍。特に九州がすごい。今回は九州大会だからというのもあるかもしれないが、ランキングを見るとランキング3位松浦(熊本)、4位前間(長崎)、5位中山(福岡)、6位大田(鹿児島)と、九州勢が安定して上位を占めているのがわかる。九州トライアルは、いまが旬?
現場からの速報レポートは
https://www.shizenyama.com/i/
でお伝えしました。
現場からの速報なので、事実誤認などもあるのですが、訂正修正はせず、そのまま残してあります。