春になったと思ったら、いきなり夏日です。トライアルGP日本大会はちょっとしか暑くなくて、よかったよかった。

全日本第5戦中国大会

黒山健

敵なし、黒山健一

 全日本選手権第5戦(関東新潟大会が中止となっているため、実際に開催されたのは4戦)中国大会は、8月7日、鳥取県鳥取市鹿野町のヒロスポーツランドで開催された。
 国際A級スーパークラスは黒山健一がまったくあぶなげなく4勝目。2位争いは田中太一、小川友幸、渋谷勲で激しく争われたが、3人ともややミスの多い展開だった。
 国際A級は白神孝之が1ラップ目の不調から逆転勝利。三谷英明は3回連続の2位だがランキングトップは安泰。
 国際B級は辻真太郎が高橋由に10点差をつけて初優勝。


 8月7日。トライアル全日本選手権第5戦。会場は昨年同様、鳥取県鳥取市鹿野町ヒロスポーツランド。山林の奥深くまで開拓された会場は、トライアルの醍醐味たっぷりのロケーション。反面、トライアルをはじめて見るような人にとってはちょっと険しいピクニック。トライアル観戦と一緒に、お客さんたちが山歩きを楽しんでくれるようになればいいのだけど(ヨーロッパの世界選手権では、そういう光景がよく見られる)日本ではなかなかむずかしそう。かくいう自然山取材陣も、山道を歩いて移動するのはしんどうございました。山奥のセクションに腰を落ち着けて観戦するなら、かなり楽しかったかもしれない。
 それにしても、8月のヒロスポーツは蒸し暑くかった。ベテランライダーの多くが、疲労困ぱいしていたが、こういう疲労感もまた、トライアルの醍醐味なのかもしれない。リザルトを見ると「疲れた、もう若くない」といっていたベテランが、少なからず上位に入っていた。おじさんパワーは、やはりあなどりがたし。

●国際A級スーパークラス

 黒山健一の好調は、引き続き揺るがない。黒山は確かにミスなく試合を進めるが、しかしそれ以上に、今、黒山を追いつめるべき上位陣の自滅が目立つ。近畿大会のように、田中太一が一人で自滅する(1ラップ、田中は最下位をマークした)ようなパターンならまだしも、田中、小川友幸、渋谷勲、3人がともに仲よく自滅して、熾烈な2位争いをしている状況。結果としては、やはり世界のシングルゼッケンと全日本トップの格のちがいということになるのだが、彼らの誰もが、すべてのセクションをクリーンできる実力があるのだから、もったいなぁという気が強くある。

田中太一

苦しみながら2位を得た田中太一

 田中太一は(に限らずだろうけど)マシンへの要求度が高いライダーだ。前回は、突然のアクシデントで愛用のエンジンが使えなくなり、積み替えたエンジンになじめず下位を低迷してしまった。今回、エンジンは絶好調に調教してきたが、今度は操安性に難が出た。石の頂点をぴたりぴたりと決めて走っているうちはいいのだが、細かい石にけつまずくようにマシンを進めると、挙動不審に陥って、方向が定まらなくなるという。マシンを急降下させるポイントでは、その後どこへ進むかわからないという暴れ馬状態のマシンと闘いながら、それでも1ラップめには黒山になんとかついていこうとし、2ラップめには6点のスコアをマークした。6点のうち、5点がひとつあるのだから、全体の走りは上出来だった。しかし終わってみたら、小川に1点差と詰め寄られていた。
 もしかすると、シーズン当初から使い続けているフレームは、田中のライディングに悲鳴を上げて、そろそろリフレッシュを要求しているのかもしれない。
「今回は、なんとかトップに返り咲くのが目的だったから、その点では満足といえますが、でも2位を守りきったという感覚でもないし、走りについてはまったく満足はしていません。渋谷は世界選手権に目を向けて、全日本と世界選手権のペースにちがいで成績を落とすという経験はぼくにも覚えがあります。小川さんはマシンが変わりました。去年と同じ体勢で走れているのはぼくだけなんで、なんとか高次元の走りを維持したいのですが。今回の2位をはずみに、つぎにつなげたいです」
 持ち時間をフルに使って、残り何秒あればポイントをクリアできるかを計算しながらのトライはお見事。残り10秒をすぎてからの秒読みにあわてずトライを進める姿は、見ているほうがあわてさせられる。こんなスリリングなトライを見せてくれるのは、田中と黒山の二人だけだ。

小川友幸

いまだ乗り換え過渡期。小川友幸

 今回、3位表彰台を獲得した小川友幸だったが、田中同様、内容的にはまったく納得ができていない。マシンは、日に日によくなってきて、スーパークラスのトップ争いができる仕様に育っている。今回は、試合前の乗り込みでも好印象を持ち、前日のプラクティスでもいい感触を持っていたから、小川はこの大会に期するものを持っていた。
 ところが、第1セクションでカードに触れたとして5点を宣告され、いきなり集中力に乱れが生じる。3クラスをひとつのセクションで走らせるため、乱立したゲートマーカーをぬって走るのは、見る者が思うより、ずっと神経を使う作業なのだと、田中太一も言っていた。ゲートマーカーについては、世界選手権(ヨーロッパの)では修正が不要なら減点は不問という解釈が多いが、日本では接触を5点とする解釈が一般的。今回は、その解釈も厳格だったようで、マーカー接触で5点をとられるケースは数多く見られた。
 小川はその後、気持ちを切り替えて黒山追撃をするも、最初からハンディを追ってのスタートの上、さらに減点を増やしたのは小川のほうだった。それも、トップがほとんどクリーンしているヒルクライムセクションでの5点。ここは、2ラップめにもやはり5点となり、ここだけで一気に10点の遅れをとることになった。
 3ラップ目の小川は、ようやくなんとか本調子を取りもどして5点でラップを回ってくるも、田中には1点及ばず。黒山との差はまったく勝負にならない5倍以上の点数と、まだまだ小川のあるべき姿とは言いがたい。
「セクション内でスタンディングをしていても、次にどんなライディングをするか、マシンのコントロールについて考えていることが多い。完全にマシンが自分のものになっていたら、そんなことを考えることはなく、セクションに立ち向かえるのだけど、まだまだマシンとの一体感ができていない証拠」
 とは小川の告白。グリップのよさなど、4ストロークならではのアドバンテージは多いが、小川のトライアルは、これまで100%2ストロークエンジンだったから、すべての潜在意識を4ストロークバージョンにするには、まだしばらく時間がかかるのかもしれない。
 思えば去年、世界選手権で初めてRTL250Fを走らせたときには、セッティングの自由度もほとんどなく「この状態で乗ってほしい」という条件でのぎりぎりのライディングだったという。マシンの慣熟など夢の話で、そのぎりぎり具合が、逆に好結果を残した。今、小川にはセッティングの自由度はもちろん、開発の幅も広がっている。それが逆に、小川の悩みを深めているように感じる。もちろん、セッティングや開発はよりよいマシンを作り良い成績をおさめるためのものだから、去年のもてぎよりも、いい条件で参戦ができているのは明らかなのだが、それが結果に結びつかないところが、小川のはまっている迷路である。
 黒山健一とトップ争いを演じた頃は、観戦するギャラリーの盛り上がりにプレッシャーを感じながら、その盛り上がりを楽しむ小川がいた。「あんな試合をしたいなぁ」と小川も往年の戦いを振り返るが、ファンもぼくらも、それを待ち望んでいる。

渋谷勲

試合中、何度か衣装替えする渋谷。これは1ラップ目

 世界選手権のフランスとイタリア大会に参戦した渋谷勲は、その経験を生かすことができず、小川に2点差の4位。第1、第2セクションで連続5点をとるなど、小川以上に出だしでつまずいた試合運びとなった。3ラップめにラップ5点をマークして追い上げをはかったのは小川と同様だが、2ラップ目の減点は大きすぎた。
 スポット参戦を繰り返しながらヨーロッパでの基盤を作っていくという渋谷の世界挑戦は、これまでの世界挑戦派の誰ともちがうパターン。それだけに、成果の出方も先輩たちとはちがうのかもしれないが、今のところは、渋谷の世界挑戦は、答えが見えていない。

 こんなライバルの動向を尻目に、黒山は1ラップの10セクションをすべてクリーンしてしまった。ならばオールクリーンで1日を走りきれるかといえば、それはまた別問題。黒山自身、オールクリーンは狙ってできるものではないとかねてから悟りを語っている。今回も、試合の目的は優勝であって、オールクリーンではない。
 たった1週間前にはイギリス大会を走っていた。わずか1週間でイギリスから日本へ移動し、今回は時差ボケの真っ最中。試合途中でふらふらになるのは目に見えていた。そこで1ラップめに試合の流れを作ってしまい、2ラップ目以降は時差ボケで苦しみながら、リードを守るというのが黒山の作戦だった。
 作戦通り、1ラップめに大量リードを作った黒山は、2ラップ目以降には、本来試合では選ぶはずのないライン選択をし足りもした。結果的にこのトライはいくつかの足つきを残すことになったが、それも時差ボケの中、集中力を維持して試合を勝ち抜くための、黒山ならではの作戦だったのかもしれない。
 この後、9月にはドイツ、北海道、ベルギー、デ・ナシオンと4週連続の強行軍が続く。黒山自身、全日本に対する現在の闘いぶりが、この強行軍の中でも維持できるかどうか、不安もあるようだが、さて、いかなる展開になるだろうか。

 5位は小川毅士。序盤第2セクションにしてハンドルが折れるというアクシデントに遭遇したが、ケガもなく、序盤ゆえ、時間的にも問題なく戦列に追いつけたのは幸いだった。トップ4に食い込むのはまだしばらく先という気もするが、スーパークラスのセクションを確実に自分のものにしているから、小川を注目する向きには応援しごたえのある時期にさしかかっている。
 小川にわずか及ばずは成田匠。まだまだ若い者には負けないという気概はあるようだが、ベトナムでのデモンストレーション活動が多忙で、今回も大会数日前に帰国し、またすぐさまベトナムに旅立つというスケジュール。そんな中、さっそうとセクションを走る成田は、スーパークラスの中でも、一人別クラスを戦っている印象すらある。
 1ラップめには5位につけるも、2ラップ目以降調子を落として7位に転落した井内将太郎。1ラップ目はスピーディな走りでセクションを走破する姿が印象的だったが、3ラップにわたってそれを維持するにはもう少し体力的問題があるか。スーパークラスのセクション攻略法について、井内はまだトライの最中のように見える。
 8位は尾西和博、9位は田中善弘。リザルト的にはこの位置が定位置となってしまった感があるが、リザルトを見ればあと10点くらいは減点をつめられそうだから、試合をコントロールすることができれば、彼らの定位置脱却の日はすぐそこという気もする。

●国際A級

白神孝之

バランスはいまだ天下一品。白神孝之

 現在の国際A級は、スーパークラス経験者に対して、若手の坂田匠太がひとり立ち向かう展開。今回も、坂田をはさんで上位7位までがスーパークラス経験者となった。
 全戦参加をあきらめて、出られる試合だけスポット参戦している白神孝之は、前回優勝最右翼と目されながら4位。今回は第1セクションで5点、第2で2点と序盤に減点を重ねて、すっかり勝利の権利を失ったの状態から試合をスタートさせた。案の定、1ラップは5位だった。
 しかし今の国際A級は、層が厚く1ラップ目の順位が、そのままリザルトに反映されることは珍しい。白神は、1ラップめに大量減点し、あとは納得できる走りをしようと心がけた結果、2ラップ目3ラップめには後一歩でオールクリーンの1点をマーク。これで2ラップめにトップにいた三谷英明を逆転。同点ながらクリーン差で勝利した。
 白神は、勝利に縁遠いライダーだ。一方三谷も、今シーズン開幕戦での勝利が、国際A級に昇格してからの唯一の勝利。スーパークラスを走り、実力的にも国際A級のトップをいくふたりが、ともに勝利経験が希薄というのは、おもしろい事実ではある。
 若手坂田は、ベテラン勢に頭を押さえられて5位。序盤に調子が上がらないのが坂田の試合パターンだが、今回は1ラップ目の2位から順位を落としての5位。百戦錬磨のベテランにもまれながらの戦いは、きっとよい経験になっていくことだろう。
 国際B級からの昇格組、野本佳章が、開幕戦以来2度目のポイント獲得を果たしている。

●国際B級

辻真太郎

ぴりりとした小粒の辻が、初優勝

 岩手からはるばる遠征してきた高橋由は、今シーズン2戦に出場してそのいずれでも勝利している。九州大会を欠場しながら、ランキングでもトップにつけるという怪物ぶり。
 そんな高橋の活躍に、なんとしてもストップをかけたかったのが、辻真太郎だった。開幕戦こそ13位とつまずいたが、九州、近畿と連続して2位となった。九州では大ベテランの川崎亘に勝利を持っていかれ、近畿では高橋が勝ちをもぎ取っていった。さらに上位を目指す辻としては、これではよろしくない。近畿では、先にゴールした高橋の点数を聞き、動揺して失点を増やしてしまったという。落ちついて試合を進められるよう、インターバルには徹底した乗り込みをおこなった。しかも、全日本の試合に則した、ターン系の練習メニューが中心だった。
 それが功を奏したか、今回の辻は、1ラップ目から好調だった。1ラップ目は3位だったが、1位向井直樹と2点差、2位川崎と1点差で、2ラップ目以降はトップ安泰。待望の初優勝は、今シーズン負け知らずだった高橋に土をつけての金星となった。

平田雅広

平谷ツートラの名物バックマーカー平田篤さん
(平田さんにタイムオーバー失格を宣告されて
涙した平谷エントラントは数多い)
のご子息雅広くん。今回9位で初ポイント。
若いけれど、親父譲りの老練なテクニックも見せる

 トップ2位は若手が占めたが、以下はバラエティに富んだ顔ぶれとなった。B級ではベテランの域にはいる向井直樹が3位、一度はA級昇格あと一歩までいった九州のベテラン村上功、国内A級から復活昇格を果たした地元の野原修二が4位5位と並んでいる。体力が追いつかない、最近の若いのにはかなわないといいながら、試合となればまだまだ若いものをよけつけないパワーを発揮するのが、日本のトライアルおじさんたちである。
 残り3戦、まだまだシーズンの行方は見切れないが、高橋と辻はこれで同ポイント。開幕戦2位の小倉昌也が2戦続けてノーポイントに終わり、現在ランキング7位。ケガで今回欠場の川村幹仁がランキング8位と、A級昇格レースも、波乱含みとなってきた。

 セクションスコアつき結果は以下。
国際A級スーパークラス
国際A級
国際B級

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