春になったと思ったら、いきなり夏日です。トライアルGP日本大会はちょっとしか暑くなくて、よかったよかった。

藤波2位のイギリスGP

藤波

惜しくも優勝をのがしたが2位キープの藤波

 7月31日、イギリスのホークストンパークで世界選手権第8戦が開催された。
 今回は1日制の大会だったが、難度の高いセクションで熱戦が展開された。
 1ラップめにリードを奪ったのは藤波貴久。しかし2ラップめに地元の雄、ドギー・ランプキンが猛追し、藤波はリードを守ることができずに逆転を許してしまった。
 ランキングポイントは、今回4位となったアダム・ラガが、いまだトップの座を守っている。2位藤波とのポイント差は13点。残りは2大会3戦となった。


 世界選手権イギリス大会は狂牛病や口蹄疫などの影響があり、開催できない年が続いていたが、4年間の空白を置いて開催されたことになる(狂牛病や口蹄疫は、菌を含んだ土が移動することで感染が広がる。泥をマシンにまとわりつけて移動するトライアルはまかりならんというわけだ)。
 会場となったホーストンパークはモトクロスコースで、ここでの開催は6年ぶりということになる。その6年前、藤波貴久は16位という無得点経験をしている。藤波が無得点となったのは世界選手権挑戦の緒戦とこのときの、2回だけだ。

ランプキン

藤波と並びシーズン3勝目のランプキン

 久々に母国での世界選手権を走れるドギー・ランプキンは、勝利に向けてしっかりとした試合をした。1ラップ目を3位で折り返したのはやや誤算だった感じがあるが、その後、素晴らしい走りでトップに浮上。地元のファンの前に、王者健在をアピールした。
 前日の雨で、超難セクションに変身していたこの大会のセクション群は、日曜日に向けて変更されて、特別に日曜日の朝、最後の下見が許されることになった。土曜日におこなった下見の時点から、それほど多くの箇所が変更されたということだ。
 それでも、セクションは充分にむずかしかった。10位以下の選手は、ほとんどのセクションを5点で終わり、勝負ができるのは2〜3個のセクションのみといった状況だった。トップライダーも、どうしてもひとつだけ走破できないセクションがあって、これは2ラップめにキャンセルとなっている。
 藤波は、この難セクションをよく走った。チャンピオンシップの追い上げに向けて、なんとしても勝利がほしい藤波。地元ファンの前で勝ち星がほしいランプキンと、勝利への執念は、どちらも負けていない。
 ランプキンがトップから脱落したのは、1ラップ目の第6セクションだった。少しだけスピードが足りず、ステップに登りそこねたランプキンは5点。藤波は2ラップともここをクリーンしている。両ラップクリーンは藤波だけだが、クリーンも可能なセクションだっただけに、ランプキンには痛い減点だった。
 以後は藤波がトップをキープする。そして藤波が再びランプキンにトップの座を奪われるのが、2ラップ目の第8セクションだった。ここで藤波は、セクションテープを足に引っかけるというアクシデントで5点となってしまった。さらに次の第9セクションでも5点。1ラップ目は、それぞれ1点と2点だったから、1ラップ目に対して、このふたつで一気に7点の減点を加えてしまった。結局、終盤に向けて、この5点が、藤波を勝利から遠ざけることになってしまった。

カベスタニー

表彰台獲得率No.1のカベスタニー
ラガ

優勝か4位? 今回は4位のアダム・ラガ

 3位カベスタニーは、1ラップ目こそランプキンに迫っていたが、2ラップめにランプキンが本領を発揮すると、最後にはランプキンに17点、藤波にも15点差をつけられて試合を終えることになった。

 今シーズン、スペイン大会やフランス大会など、セクション模様がインドアトライアルそのものの設定となっている大会がいくつかあった。モンテッサ陣営にとって、インドアトライアルはまだまだノウハウが足りず、百戦錬磨の2ストロークとスペイン勢には一歩ひかざるをえない。しかし自然の中の、トライアルらしいトライアルになれば、カベスタニーやラガにはない強さが、藤波やランプキン、そしてモンテッサチームにはある。
 それでも、ラガはしぶとい。じりじりと藤波にポイント差を詰められながら、4位に踏みとどまっているのはさすが。今シーズン、残る試合は2大会3試合。今回のように、藤波が2位、ラガが4位で残り3戦が進めば、1ポイント差でラガが初の世界チャンピオンとなる。藤波が3連勝、ラガが3戦続けて4位なら文句なしに藤波がチャンピオンだが、藤波が3連勝しても、ラガが2位をキープすれば、この場合はもちろんラガがチャンピオン。結局、状況はまだ混とんとしている。
 残る試合はドイツとベルギー。そこに用意されるのは、自然のセクションなのか、それとも人工的なインドア風セクションなのか。用意されるセクションの趣向によっても、世界タイトルの行方は微妙に変わってきそうな終盤戦である。

黒山

世界選手権11年目の黒山健一
野崎

世界選手権4年目の野崎史高

 黒山健一は“定位置”の7位をはずして、今回は9位。地元で調子を上げてきたジャービスにランキングでも1点差に詰め寄られている。
 野崎史高は14位。今シーズンは全戦でポイント獲得する安定感をみせているが、すでにベテランの域に達したジョルディ・パスケットやポーランドの若手、タデウス・ブラズシアクあたりに頭を押さえられてしまっている。現状からの脱皮が待たれるところ。
 4強以外では、安定して5位を勝ち取っているのがトニー・ボウ。本人はそろそろ欲が出てきて、表彰台がほしいはずだが、トップ4はなかなかその座を譲ってはくれない。5位のフレイシャは、今回は1ラップ目が最悪で、2ラップ目がとてもよかった。2ラップ目の調子で丸一日走れれば優勝だったのだが、それはかなわず。「2日制だったら、あしたは優勝なのに」と本人もくやしげなコメントを残している。さらにいえば、1ラップ目がもう少しよくて、ラガの前にフレイシャが割って入れば、藤波のチャンピオン争いにもぐっと有利になるのだが、なかなかうまくはいかないようだ。

 今回は、ジュニアクラスに動きがあった。イタリア大会でユース125のタイトルを決定したダニエル・オリベラスが、ジュニアクラスに参戦してきた。125でのジュニアクラス参戦は、すでにダニエル・ジベルトで例があるが、今回は二人のダニエルが1点差で表彰台を争った。
 優勝は、同じくイタリアでジュニアチャンピオンを決めたジェームス・ダビルで、これに比べると20点もの開きがあるが、125で果敢にトライするスペインの若手。スペインの覇権は、まだまだこれからも続きそうな予感である。
 ジュニアクラスには、このほか20歳以上のイギリス勢が多く参加した。日本では、ジュニアクラスはさっぱり人気がなく、誰もエントリーしてこないが、ヨーロッパでは「世界選手権にでてもトライアルにならない」と考える選手が、積極的に賞典外でジュニア暮らすに参戦してくる。今回は、SSDTで好成績を挙げるギャリー・マクドナルドも、賞典外でのジュニアクラスに参加してきた。その成績は、ようやくライア・サンツに勝てる程度だから、ジュニアといえど、やはりそのレベルはそうとうに高いのだ。
 海外の口の悪いジャーナリストにいわせると、日本のライダーは、ライアに負けるのにびびってジュニアクラスに出てこれない弱虫なんじゃないかとのことだが、日本でも、ジュニアクラスやユース125をきちんと参戦対象としないと、ヨーロッパの切磋琢磨からどんどん立ち後れていく気がして、おそろしい。

イギリス大会結果表

Pos. Rider Lap1+Lap2+Time Total Clean
1 ドギー・ランプキン 36+12+0 50 11
2 藤波貴久 27+24+1 52 10
3 アルベルト・カベスタニー 32+35+0 67 9
4 アダム・ラガ 38+33+1 72 7
5 トニー・ボウ 39+29+5 73 9
6 マルク・フレイシャ 46+24+4 74 7
7 グラハム・ジャービス 52+29+2 83 6
8 ジェロニ・ファハルド 52+32+2 86 4
9 黒山健一 47+36+4 87 3
10 ジョルディ・パスケット 57+44+0 101 3
11 タデウス・ブラズシアク 59+49+0 108 2
12 シャウン・モリス 64+53+0 117 2
13 サム・コナー 63+52+4 119 3
14 野崎史高 66+54+2 122 2
15 スティーブ・コリー 65+61+1 127 1

●ランキング

Pos. Rider Machine Total
1 アダム・ラガ ガスガス 198
2 藤波 貴久 ホンダ 182
3 アルベルト・カベスタニー シェルコ 178
4 ドギー・ランプキン モンテッサ 173
5 トニー・ボウ ベータ 136
6 マルク・フレイシャ モンテッサ 131
7 黒山健一 ベータ 102
8 グラハム・ジャービス シェルコ 101
9 ジェロニ・ファハルド ガスガス 84
10 ジョルディ・パスケット ガスガス 67
11 タデウス・ブラズシアク ガスガス 64
12 野崎史高 スコルパ 49
13 サム・コナー シェルコ 26
14 シャウン・モリス ガスガス 20
15 渋谷勲 スコルパ 13
16 田中太一 ガスガス 12