春になったと思ったら、いきなり夏日です。トライアルGP日本大会はちょっとしか暑くなくて、よかったよかった。

トライアルが、変わる?

ミーティング0803

 トライアルの運営方法が、変化を模索している。全日本は、すでに中部大会でスペシャルセクションという見やすい観戦を主な目的としたシステムを導入しているが、これとは別に、今年の中国大会(第5戦9月7日開催)で、実験的に今までとはまったく異なるタイムスケジュールで大会を運営することになった。
 時期を同じくして、スペイン選手権でも、従来とはまったく異なるぎょうてんの大会運営がされている。どちらも、その目的はお客さんに見やすい(スペインの場合はテレビ中継などの可能性も含んでいる)大会運営だ。


 全日本選手権開幕戦の土曜日のライダースミーティングで、MFJトライアル委員長の西英樹氏より、中国大会で実験的な運営をしてみたいので賛同してくれないかという提案があった。この提案は次の通り(概略)。西さんは中国エリアのトライアル委員長でもある。全日本選手権の前日にシニアとレディースの大会を開催してみたり、試みには熱心。「なにか変えていかないけん」が西さんの合い言葉だが、日本全国を変えるのは抵抗があっても、自分のところならそれが比較的容易ということで、中国大会での実験運用を検討することになった。
・IBクラスは午前7時半(現在の標準より30分程度早い)に第1ライダーがスタートするが、1分1台ではなく、1分2台のスタートとなる。60台参加とすると、最終ライダーのスタートはだいたい8時ちょうど、ゴールは12時ちょうど。
・IAクラスとIASクラスは、12時半に第1ライダーがスタートする。こちらも1分2台。IA、IASあわせて40台の参加があるとすると、最終スタートは12時50分ほどで、最終ゴールは約16時50分となる。
・IBクラスの表彰式は、IBクラスがゴールしたあとにおこなわれる。
 この運営方法の実験の目的は、普及促進を目的とした観客へアピールできるトライアル競技への見直しとされている。セクションの下見に費やす時間が長いこと、それが時間が足りなくなってエスケープするなど、お客さんをがっかりさせる事態にもつながること、各クラス混走のために渋滞が発生することなどが、現状の懸案としてあげられている。
 選手側の反応は、IBクラスが蚊帳の外におかれるような寂しい感じがある、という意見があった一方、お客さんに見やすい大会運営の模索は必須であり、新しい実験はどんどんやっていくべきである、という受けとり方が多かった。ちなみに真壁大会のタイムスケジュールを見ると、IBの最初のスタートが8時で、最終スタートが9時ちょっとなので、IBの面々は30分〜1時間早起きを強いられることになる。
 蚊帳の外という感覚は、表彰式が上位クラスと別に行われるのと、早い時間には観客がいないという思いがあるようだ。現状では、IBの2ラップ目にはそろそろIASがスタートしていて、IBライダーも大観衆の前でトライすることができる。
 自然山通信の感想としては、早起きしなければいけないのは大いにつらいが、これまで朝のうちしか観戦できなかったIBクラスを全試合にわたって追いかけられるのはたいへん興味深い。IBクラスはこれからの才能の宝庫の上に、ベテラン勢のがんばりもあって、多彩な顔ぶれを楽しむことができる。仕事ではIASを追いかけたいが、個人的にはIBを追ってみたいと思うことも多々あったから、この運営方法は大歓迎だ。ただ、IAクラスを追いかけられないのは従来同様で、中国大会では突然IBクラスに手厚いレポートが書けるかもしれないけど、IAクラスはIBとIASのついで、という扱いになってしまうかもしれない。IA専用の取材陣が置ければいいのだが、そんな取材体制がとれているところはどこにもないので、IAの方々にはごめんなさいです。つまり自然山的には、この運営方法で蚊帳の外におかれてしまうのは、IAクラスです。
 従来から思っていたことがある。トライアルの試合は、なぜこんなに朝が早いのかと。競技時間が長いから、必然的に朝が早いのは理解できるのだが、もっともスタートが遅いIASでも、12時を少し回った頃には1ラップ目がだいぶ進んでいて、それも真壁大会のように競技時間が慌ただしいことになると(それが選手の時間の読みまちがいなのか運営面の問題かはここでは棚上げするとして)、お昼にきた観客は大急ぎの試合展開を見なければいけなくて、現実問題として、トライアルの醍醐味に入っていくのは不可能だろうと思う。
 F1やモトGPを見ると、あれはテレビ中継とのかねあいもあるのだが、午後2時頃にスタートする。それまでは前座レースをやったり125や250のレースをやって、目玉レースはゆっくり(といっても家をでるのは早朝になるだろうけど)やってきたお客さんにも間に合うようなタイムスケジュールだ。午前中に、一番の目玉の試合の大半が決着しているなんてスポーツイベントは、トライアル以外にあるだろうか? その解答のひとつが、全日本中部大会のスペシャルセクション(通常の2ラップのあと、IASは難度を増した見ごたえのある3セクションを走る)であり、今回の中国大会の実験的運営システムだ。
 こういった取り組みについては、全日本が国際組織であるFIMのルールや運営とかけ離れてしまっていいものかという議論が必ず出る(15セクション2ラップの世界選手権に対して日本の標準は10セクション3ラップなので、現状でFIMを踏襲しているとも言いにくいのだが)。ところがときを同じくして、世界選手権参戦ライダーの大半が出場するスペイン選手権で、世界選手権とはがらりと異なる運営方式を採用した。
 ライダーは、土曜日にセクションの下見ができるが、スタートしたら下見ができない(!)。そして第1セクションをトライしたら、もう一度第1セクションをトライして、第2セクションへ向かう。第2セクションも2回トライする。そして第3へ。第5セクションを終えたところと、第10セクションを終えたところでタイムコントロールがあり、決められた時間を超過していると、ペナルティが科せられる。もちろん15セクションを終えたところでもタイムコントロールがある。持ち時間は3時間15分。今までは2周していたのを1周しかしないが、15セクションを2回やるのは変わらない。従来は5時間半だったから、かなり忙しいトライアルになる。
 始まる前は、ライダーはみなブーイングだったそうだが、ヨーロッパは(スペインは)やると決めたら多少不完全なものでもやってしまって、あとからかたちにしていく技を持っている。いまやようやく日本でも浸透してきたユース125クラスも、最初はなんだかわからないまま始まったものだった。で、順応性が高いのもあちらの人たちの特徴だ。あちらの人たちとは国籍はちがうが、世界チャンピオンをとったくらいの人だから、藤波貴久も順応性は高い。「やってみたら、意外に悪くなかった」とは藤波の感想だ。
 スペイン選手権とも全日本選手権ともちがうが、日本にはお巡りさんの大会もある。全国の警察が戸道府県ごとにチームを作ってトライアルやジムカーナ、その他いろいろ、白バイ隊員としての技術を競うのだが、そこにトライアルもある(マシンがないため、存続の危機だそうだが)。このトライアルが、下見は前日のみというルールでやっている。しっかりセクションを記憶しておくのも、白バイ大会ではトライアルの技術のうちなのだ。これは余談でした。
 さてスペイン選手権では、やはり全日本と同様いくつかのクラスがあるが、この運営方法をとるのは、藤波らが走るトップクラスのみだそうだ。彼らのクラスはいわばIASクラスで、IAやIBは従来通り15セクションを2ラップして、下見をするのもご自由だそうだ。そしてその一番最後を走るライダーがだいたい10セクションあたりについた頃、スペインのIASクラスはスタートする。IASはひとつのセクションを2回ずつ走るから、IAに追いつくことはない。昨今、ユースクラスの人気でトップクラスがユースなどの2ラップ目に追いついて渋滞を発生することが少なからずあったが、これは新運営方式で一気に解決だ。
 反面、下見がまったくできないというのは、危険でもある。下見をするなというのは、日本のようにライダーやマインダーのセクション改変を問題にしたのではなく、テレビカメラがセクション内にいる人間を排除したかったからだと思われるが、テレビ放映も重要だが、危険なのではちょっと困る。
 3時間15分の持ち時間では、現実的に下見をしている時間はないので、どうしても下見の必要がある場合はライダー判断で自由に下見をさせてもいいのではないかというのは藤波案。持ち時間は、マシントラブルがあったら万事休す、あと少々余裕があったほうがいいが、それでも不可能な持ち時間ではなかったということだ。マシントラブルへの対処については、時間が少なくなっただけ、いよいよチーム力の発揮するところとなるため、これまで以上にチームのパワーが結果に影響するのではないかというのが、藤波の観測でもあった。日本では、マインダーのいるライダーといないライダーの格差が問題になっているが、マインダーがいるのが標準となったスペインでは、その先のチーム力の問題が発生しようとしている。
 スペインの国内選手権での運営だから、そういうてんでは全日本での運営実験とまったく同じ試み(内容は異なるが)ということになるが、ところがなんせスペインであるから、これが好評をとるようなら、あるいは近い将来、世界選手権がこの運営方式になるかもしれない。
 こちらも自然山の感想としては、今まで見たくても見るチャンスの少なかったユースやジュニアの選手をじっくり見られるようになって、歓迎すべき運営方法だと思うのであった。
 なお全日本では、下見の方法が厳しくなっていた。土曜日にセクションを見るのは(セクションに入れるのは)、エントリーしたライダーのみ。当日も、スタートするまではセクションには入れない(もちろん、観客エリアからの下見はご自由だ)。前日も当日も、マインダーのセクション立ち入りはご法度(お助けのため、オブザーバーに許可を求めてはいるのは許される)。
 マナーが悪いから、規則がどんどん厳しくなっていく、というのはとある競技役員さんのつぶやきだが、規則に違反しなければ(=ペナルティをもらわなければ)できることはすべてやって勝利をめざすのは競技人ととしての本能という気がする。わかりやすい規則が充実していくのは、これも歓迎すべきことではないだろうか。