春になったと思ったら、いきなり夏日です。トライアルGP日本大会はちょっとしか暑くなくて、よかったよかった。

圧勝黒山健一V10達成

2011SUGOの黒山健一

 10月30日全日本選手権第5戦(最終戦)は、宮城県スポーツランドSUGOで開催。前回第4戦中部大会で小川友幸に連勝をストップさせられていた黒山健一が、今度はまったくあぶなげない試合運びとライディングで圧勝。2011年のチャンピオンを決めると同時に、自身10回目の全日本タイトル獲得となった。10回の全日本チャンピオンは、ロードレースやモトクロスを含めて、全日本選手権の新記録だ。
 2位は小川友幸が、小川毅士をわずかに上回って入賞。ひどい腰痛で前日まで入院していたという野崎史高が4位となった。
 国際A級は岡村将敏が10年ぶりの勝利、国際B級は中部でタイトルを決めていた小谷一貴が3勝目を挙げた。


 最終決戦。とはいえ、年間を通した戦いとしては、ほぼ決着はついていた。今年のシリーズは全5戦。黒山健一は早々と3連勝して、勝ち星ではライバルを圧倒している。その3戦で、小川友幸が2位2回、3位1回。ポイント差は8点。小川が逆転チャンピオンとなるには、小川自身が優勝しなければいけないのはもちろん、黒山が5位以下にならなければいけない。ロードレースやモトクロスなら、トラブルや転倒による万が一のリタイヤということも考えられるが、トライアルではそういったどんでん返しはほとんどない。勝負は、7割方、第3戦での黒山3連勝達成で決着していたともいえる。
 とはいえ、黒山は前回中部大会で小川に敗北を喫している。最後のSSで5点にならなければ勝っていたという試合だっだが、負けは負け。小川のお膝元である中部。そして黒山のバックボーンであるヤマハの本拠地である中部。中部決戦は小川の粘り勝ちとなった。このまま気を抜いて4位になってもチャンピオンとなれる黒山だが、それではチャンピオンとしての名がすたる。どうしてもここでは勝って優秀の美を飾らなければいけない。
 第1、第2と走り進んでいくと、その時点で減点がないのは黒山と小川の二人だけになった。野崎史高は第1セクションで1点、小川毅士は同じく3点を取っている。もちろん数点の点差は充分に逆転の範疇だが、ぴりりとした緊迫感を周囲に与えているのは、黒山と小川の二巨頭となる。

2011SUGOの小川友幸

2010年チャンピオン小川友幸

 最初に足を出したのは黒山だっだ。第3セクションは、数年前には誰も上がれなかった岩盤上り。最近は、よっぽどでもアンダーガードを引っかけて高さを克服していくが、角がない丸い斜面は難物だ。野本佳章がスパンとクリーンしていった以外、小川毅士も野崎も、みんな5点。黒山は、その難所を1回の足つきで登りきった。そしてその後にトライした小川がクリーン。小川がこの試合のリーダーとなった。
 ところが、小川のリードは一瞬。次の第4セクションは、濡れた泥と険しい岩が行く手を阻む。ここは野本も5点。小川毅士がなんとか3点で抜け出てきたが、途中のとがった岩に飛びつくポイントがむずかしい。黒山は、ここでも1点。この1点は見事だった。しかしここは小川にとってはチャンスだ。むずかしいセクションだが、ここをクリーンすれば黒山に対してリードを2点に広げることができる。しかし小川はここに飛びつけずに5点。5点になった後、もう一度やってみたがやっぱり登れなかっだ。小川の1点リードは一瞬にして4点ビハインドになった。
 続く第5セクション。ここも難所だ。最後の急斜面登りが鬼門だ。ここもまた野本がクリーン。田中善弘も3点とがんばったが、小川毅士は5点となった。野崎は1点でここを抜けたが、実は野崎はひどい腰痛に悩まされていて、まったく本領を発揮できるコンディションではない。あまりの腰の痛みに入院して、土曜日の朝は病院で迎えたという。最終戦は欠場やむなしの方向だったが、だめもとで病院を抜け出して試合参戦している状況だ。腰が痛いだけでなく、足もしびれてしまって力が入らない。野崎のライディングを見ていると、マシンを右に傾けてしまって5点になるシーンが多い。左足に力が入らないので、マシンが曲がってしまうのだった。
 ここまで、黒山のトライを見てからセクションに入っていた小川友幸だが、ここで黒山の前に出た。これで勝負が動くだろうか。しかし小川は、登りきれなかった。2セクション連続5点だ。最後にトライした黒山は、野本に続いて二人目のクリーンをたたき出した。小川との点差は、5セクション目にして8点に広がった。実は小川は、この頃リヤサスのトラブルに悩まされていた。トラブル自体は交換でなおるものだが、パドックから最も遠いエリアでのトラブルで、戻って交換している時間がない。だましながら、トラブルを起こしたさすに合わせたライディングを探りながらのライディングを強いられていた。
 5セクションが終わって、黒山が2点、小川が10点。この時点で、野崎は12点、小川毅士は16点。今日は難所でのクリーンが印象的な野本は5セクションを終えて11点、3位につけている。もともと走破力には定評のあるライダーだが、細かいポイントでの失点が響いて成績をあげられないでいたが、どうやらいよいよからを破り始めてきたようだ。
 柴田暁は、今回もいまひとつ本領発揮ではない。目標を優勝に置き始めて、それが逆に走りを守りに回らせているような印象もあり。第5セクション時点で20点。田中善弘と宮崎航は21点、斉藤晶夫が22点。去年のIAチャンピオン田中裕人は17点。ここまでで6位につける。晴れコンディションで、気持ちがよいそうだ。
 黒山は、ライバルが失点していくのを尻目に、いよいよ独走ペースをつかんでいく。1ラップ目12セクションを走って、黒山の減点はたったの5点だった。すでに2位以下には大差をつけて、まず今日の勝負は確定的だ。
 黒山に続いて2位で1ラップ目を終えたのは、意外にも野崎。リタイヤ覚悟で走っているにもかかわらずのこの途中経過に、野崎本人もびっくりだ。小川友幸は19点で野崎に3点差。さらに小川友幸に3点差で小川毅士。途中3位につけていた野本は1ラップを終えたところで小川毅士に7点差の5位となっていた。
 2ラップ目。トラブルを修復した小川友幸がやや復調。しかしすでにすっかり勢いづいてしまった黒山を脅かす存在にはなれない。黒山は、1ラップ目に1点で抜けた難所の第4セクションで5点となって、それ以外はすべてクリーンして2ラップ目を終えている。
 小川はこの第4セクション(2ラップ目の第4は、結局全員が5点となった)と、意外にも第7セクションで5点(このセクション、クリーンはともかく走破できたライダーは比較的多かった)。ふたつの5点で2ラップ目を10点でまとめた。1ラップ目に比べればほぼ半分の減点だが、それでも黒山の倍の減点。この時点で黒山の勝利は確定的となっていた。
 1ラップ目に1位だった野崎は、さすがにそのポジションを維持することはできずに、2ラップ目に順位を落としている。逆に尻上がりに調子をあげてきたのが、小川毅士だ。小川毅士の2ラップ目は5点はひとつだけ。小川友幸にも勝る9点で2ラップ目をまとめた。1ラップ目に3点差だった両者の点差は、いまや2点に迫っていた。
 残るはふたつのスペシャルセクション。どちらも難度は高い。ひとつめのセクションでは、次から次へと玉砕して、5点ばかり。腰の痛い野崎が気合いを込めて3点で抜け出て、次にトライするのが小川友幸。ところが小川は、難所のポイントのはるか手前の、急な下りでラインを乱して、セクションテープを切ってしまう5点。小川本人も苦笑いをしてしまうミスとなった。そして最後にトライしたのが黒山。黒山は見事な1点。今日の黒山の好調を象徴するような1点だった。

2011SUGOの小川毅士

シーズンの最後に2位争いをした小川毅士

 SSの二つ目。2011年全日本トライアルの最後のセクション。SS1に比べると難度は低いそうだが、むずかしいにちがいない。初めてここを抜け出したのは1点の小川毅士だっだ。これが、2位争いの最後のクライマックスになった。試合を終えた小川毅士は37点。対して最後のセクションを残した小川友幸は34点。3点なら同点で友幸の勝ち(クリーン数差)だが、友幸5点なら毅士が2位だ。
 プレッシャーのかかる友幸のトライ。野崎がもがき苦しんで5点となった岩盤を一気に登って、クリーン。小川毅士2位の望みを断ちきって、小川友幸が最終戦を2位で終えた。

2011SUGOの黒山

優勝とV10の黒山健一

 最後のトライは黒山。小川と同じラインを選択するが、その走りにはより余裕があるようにも見えた。そしてクリーン。SSの2セクションを両方5点でも優勝に変わりはなかった黒山だが、結果的にはSSを1点でまとめ、5点の小川友幸、6点の小川毅士、8点の野崎と、SSの減点が少ない順に結果表に並ぶことになった。
 野本は野崎に8点差で5位。さらに6点差で柴田。ふたりとも、目指すところはもっともっと上位のポジションだというから、来年以降を楽しみにすることにしよう。

2011SUGOの黒山健一と黒山二郎

表彰式後にヤマハブースでV10報告会。こういう舞台に慣れていないマインダーの二郎くんとともに

 黒山健一、2011年チャンピオン。これは、黒山にとって10回目のチャンピオン。10回の全日本チャンピオンは、MFJ史上新記録だ。

2011SUGOの小川友幸
2011SUGOの小川毅士
2011SUGOの野崎史高
2011SUGOの野本佳章
2011SUGOの柴田暁
2011SUGOの田中善弘
2011SUGOの宮崎航
2011SUGOの田中裕人
2011SUGOの斉藤晶夫

IASの2位から10位までのライダーのコメント。小川友幸、小川毅士、野崎史高、野本佳章、柴田暁、田中善弘、宮崎航、田中裕人、斉藤晶夫

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□国際A級

2011SUGOの岡村将敏
2011SUGOの岡村将敏

優勝した岡村将敏

 すでに三谷英明がチャンピオンを決めているこのクラスだが、これも最終戦。三谷が全日本選手権でチャンピオンとなるのはこれが初めてだが、実は2005年にもチャンスがあった。最終戦までポイントをリードしていて、最終戦で若い坂田匠太に逆転を許したのだ。三谷によると、SUGOではいいことがないらしい。
 三谷はいつものように、やるべきことを淡々とおこない、セクションをめぐっていく。それが結果的に勝利につながっていたのが、今シーズンの三谷の戦い方だった。
 1ラップ目、その三谷にリードを撮ってトップにいたのは、滝口輝だった。わずか1点差ではあるが、ここは若手のがんばりに期待したいところだ。なにせ今シーズンは、若手が一度も勝てていないし、表彰台に乗ることからして多くない。
 しかし滝口は、終盤の2セクションで連続5点。もちろん簡単なセクションではないが、ポイント圏内のライダーでこのふたつを連続で5点となっているのは滝口だけだ。滝口はこれで5位に転落。もしこの2セクションをクリーンしていれば、滝口の初優勝シーンが見られたところだった。
 優勝は岡村将敏。なんと岡村の勝利は10年ぶりだという。ベテラン三谷がタイトルを獲得した2011年は、最終戦でもベテランが強かった。SUGOでいいことがないという三谷は、それでも2位に入った。

2011SUGOの3クラスのチャンピオン

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□国際B級

2011SUGOの小谷一貴
2011SUGOの小谷一貴

優勝、そしてチャンピオン。小谷一貴

 国際A級と同じく、やはり中部大会でチャンピオンが決まった国際B級。チャンピオン小谷一貴は、しかし最終戦にも必勝機運で臨んだ。全5戦の2011年全日本選手権。ここまで2勝している小谷にとって、最終戦は勝率5割をめぐる自分との戦いだった。
 深い森の中で5点となった小谷だったが、その後しっかりと気持ちを立て直して、以降は5点なし。2位山口雄治に5点差で最終戦勝利を飾った。
 ランキング2位をキープすることになった鈴木克敏は、1ラップ目14位から2ラップ目に3位まで浮上するがんばりを見せた。4位朝倉匠も、1ラップ目12位から浮上してきている。5位には、1ラップ目の3位からは順位を落としたものの、倉持俊輝が初めてポイントを獲得している。1位から5位までが若手。6位に、ドラッグレースやダートトラックからトライアルに帰ってきた生田目俊之が入っている。
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