春になったと思ったら、いきなり夏日です。トライアルGP日本大会はちょっとしか暑くなくて、よかったよかった。

ヤマハ、ワンツーフリーフィニッシュ。EVが2クラスを制する

ついにヤマハが初勝利を果たした。ファクトリーチームから参戦の黒山健一、ヤマルーブヤマハの野崎史高、そしてbLU cRU VICTORY(ブルークリー・ビクトリー)の氏川政哉。勝ったのは、年齢もゼッケンも一番若い、氏川政哉だった。

チームを変わってマシンも変わって、勝たなければとの思いが空回りしていたという氏川は、今回は楽しんで走ってこいと送り出され、その通り、楽しくトライアルができた、その結果の勝利だったという。


開幕2戦、ヤマハ最上位の座を守っていた黒山は、今回も2位で、3戦連続の2位表彰台を得たが、2点差で勝利には届かなかった。派手なクラッシュシーンが何回かあったが、いつものように「痛いだけです」と意に介さない。それでも、氏川、野崎が2ラップともクリーンして、黒山も2ラップ目にはクリーンした岩盤の第7でのクラッシュは、フィジカル的にも試合的にも痛かった。ヤマハ1-2-3はすばらしい快挙だが、やはり勝つべきはファクトリーレーシング所属の黒山が第一だから、チームの喜びと同時に本人は悔しさを隠さなかった。


「3人がTY-Eに乗ることになったときから、いつかは3人で表彰台独占をしようなと話していました。なのでこの結果は望んでいた結果そのものですが、でも初優勝はぼくがしたかった。うれしさもくやしさもどちらもいっぱいです」と黒山は心情を打ち明ける。

「ライバルは日本GPを欠場している。このもてぎ大会はチャンスだと思っていた」と佐藤美之監督は語ったが、本心として、ファクトリーチームが初優勝を飾りたかった、というのが本音のようだ。しかし、みんながやるべきことをやった結果の大成果との認識に変わりはない。


ここまでの2戦を5位、7位と沈んでしまっていた野崎は、3戦目にして表彰台までポジションを戻してきた。開発ライダーとしてTY-Eとのつきあいは短いものではないが、試合となるとまた別の慣れが必要なのかもしれない。2ラップを終えた時点では小川毅士と同点だったが、SSで1点つきはなして表彰台をがっちりゲットした。


4位小川毅士は、難セクションの第10をただひとり3点で抜けたライダーとなった。1ラップ目に5点だったセクションを2ラップ目に抜けたと思えば、1ラップ目に抜けているセクションで2ラップ目に5点になったりしていて、野崎を追いきれなかった。


そしてこの小川毅士ともほぼからむことなく、単独5位となってしまったのが小川友幸だった。最初にトライした第2セクションでまず5点。いつもなら切り替えて残りセクションをトライして、確実に上位に進出してくるのがガッチ流だが、今回はそうはいかなかった。挽回しようとして5点、少しでも減点を減らそうとして5点。悪循環に陥って、順位の浮上はできなかった。不幸中の幸いとしては、開幕2連勝のおかげで、今回の5位がランキングトップ陥落につながらなかったこと。それでも、3戦連続2位の黒山に、1ポイント差までつめよられている。

柴田暁6位、前回表彰台の武田呼人は7位。ランキングテーブルを見ると、4位の小川毅士(37ポイント)から7位の柴田(33ポイント)まで、武田と野崎を含めた4人が4点差の中にひしめいている。ランキングのトップ3は小川友幸、黒山、そして氏川。氏川は前回6位だったのが響いて、トップ小川友幸には10ポイント差をつけられているが、まだ第3戦。今後の展開が楽しみだ。

SS進出の10位以内は8位久岡孝二、9位田中善弘、10位武井誠也。久岡と武井は3戦続けて同じ順位、田中はこれがシーズン初のSS進出となった。

大会の晩にヨーロッパに旅立つ黒山陣は武井に7点差の11位。以下、岡村将敏、平田雅裕、磯谷玲、磯谷郁がポイントを獲得して、濵邉伶、浦山瑞希が無得点となった。濵邉と浦山はオール5点だった。がんばれ!

この会場、雨が降ろうものならとびきり滑るのだが、土曜日の夜半から雨が降って、日曜日の天気予報は雨。しかし明けてみると、朝になって雨は止み、日中は日もさす好天となった。それでも予定通り、2ラップ目の後半からSSの頃には雨が降り出して、それもなかなかけっこうな雨になり、表彰式はすっかり雨の中のセレモニーとなった。

■国際A級

IASの一部のライダーにとっては“3日目”のもてぎ大会となるが、IAライダーにとっては年に1度のぶっつけ本番。特に、もてぎについては誰よりも詳しいのに、選手としてこの場にいるのは初めてというライダーがいた。成田匠だ。

成田はご存知の通り、第1回開催時からトライアルGPのセクション造成に携わっている。岩の一つ一つ、斜面のひとつひとつの表情を知っている。これまで、多くのスタッフと苦労して作り上げてきたセクション群。成田は、この20余年のいろんなことを思い浮かべながら、セクションにトライした。


結果は、成田が第2戦から2連勝。53歳と世界選手権の表彰台経験者でもあり、2度の全日本チャンピオン(IAで3度のチャンピオンになっているが、トップカテゴリーとしてのIAチャンピオンは2回)でもある成田なら、この結果も順当と見られそうだが、少なくともEMがこのクラスを勝利する実力を充分に持っていることは、もはや誰の目にも明らかだ。

今回の10セクション、成田は第3と第12は攻略できずだったが、これを抜けたのは、若い宮澤陽斗が最終第12を3点で抜けたきりで、他は全員5点だった。

どうにもいつものペースに乗れなかった本多元治が今シーズン2回目の参戦で、成田に9点差の2位。第2戦の時点で、連続して表彰台に乗る選手は皆無となっていたが、本多は2戦出場して2位2回と、唯一表彰台登壇率100%をキープしている。

前回の2位からひとつポジションを落としたものの、2戦連続表彰台は宮澤。ベテラン勢ばかりのIAにあって孤軍奮闘の若手選手ということになるが、ランキング2位の平田貴裕まで1ポイント差に追いついてきた。平田は4位。5位に成田亮が入っている。

森岡慎哉(12位・開幕戦は負傷欠場した)と小沼侑輝(14位)が今回、シーズン初ポイント獲得している。

■レディース

LTRのトップ争いは大接戦。勝利は山森あゆ菜が2位に6点差をつける王者ぶりを示したが、2位争いは1点差だった。


2位に入ったのはソアレス米澤ジェシカ。彼女にはこれまで3度の2位入賞経験があるが、昨年のもてぎ大会以降、負傷療養が続いていて、今回は復活を証明する1戦となった。ランキングでも、小玉絵里加に4ポイント差の4位に浮上した。


開幕戦で勝利、第2戦で2位となって山森とトップ争いを演じていた中川瑠菜は今回は3位。ランキングで一気に9ポイント差をつけられることになったが、1戦でできたこのポイント差は、逆に言えば1戦で取り返せる。タイトル争いは、最後まで見逃せない戦いになりそうだ。

中川と6点差で4位となったのは小玉で、今シーズン初登場の清水忍が小玉に7点差の5位、ここまで全戦に参戦している齋藤由美が6位となった。

■国際B級

元国際A級の髙橋淳は今回もうまさを遺憾なく発揮した。1ラップ目の減点は6点で、2位にダブルスコア以上の差をつけた。


3戦連続優勝の髙橋にもはや死角はないとして、2位争いがなかなかおもしろいことになっている。台湾から全日本の時だけ来日している陳文懋(今回からマシンがホンダになった)が初の2位入賞。ここまで2戦連続2位の永久保圭は今回3位となった。

元国際A級とトライアルGPの125ccクラスに出場経験のある陳、ふたりのタダモノではないライバルを相手に戦う永久保は厳しいトップ争いを強いられているが、考え方によっては、将来に向けてよい修業のシーズンになっているのかもしれない。

2024全日本もてぎの渋滞風景
第8から第5方向を見るとこんな感じだった。セクション一つエスケープしても次がまた混んでいる。

ところで、どのクラスにも共通することだが、今回は渋滞がひどかった。結果だけ見れば、大幅なタイムオーバーを食ったライダーはいなかった。しかしこれは、みんなが時間に間に合うように、セクションにトライしないで申告5点で帰ってきたからだ。

トライアル競技はオブザベーションとタイムコントロールで勝負が決まる。時間がなくて焦るはめになるのは時間配分が悪いから、その中で集中力を切らさずセクショントライするのが勝負のキモとなるのだが、さて。

今回の参加はIAS(国際A級スーパー)が17名、IA(国際A級)が40名(1名欠場)、LTR(レディース)8名、IB(国際B級)74名(2名欠場)。合わせて139名という大盛況。IBとIAは1分に2台ずつスタート、IAとLTRは1分に1台ずつ。LTRのあと1時間強半弱のインターバルを置いてIAがスタートする進行で、それぞれ10セクション2ラップを持ち時間は4時間半で回る。IASとIAは第1と第9なし、LTRとIBは第6と第11がないというやり方で、セクションそのものは12個用意されている。

セクションの持ち時間は1分、失敗してセクションがこわれれば、その修復にまた時間がかかる。スタートは一人30秒ずつだから、構造的に渋滞は避けられない。しかも遅いスタートのグループには、早いスタートの2ラップ目が追いついていた。

それでも、IBとLTRだけなら、まだ持ち時間は足りていたかもしれない。1時間半近いインターバルでIAが30秒に一人の間隔でスタート、彼らは彼らで渋滞を作り、そこに残り時間が少なくなった2ラップ目のIBの(主に)トップグループが追いついて、渋滞はさらに広がる。

持ち時間を計算しながら、申告5点で先を急ぐのも勝負のうちという考え方もあるかもしれない。でもせっかくセクションを作って、オブザーバーも配置して、お客さんを呼んで、選手も走る気満々なのだから、なんとももったいない。

事前情報
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リザルト
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ランキング
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