春になったと思ったら、いきなり夏日です。トライアルGP日本大会はちょっとしか暑くなくて、よかったよかった。

氏川政哉、2023年に才能開花か

4月2日、全日本選手権開幕戦は、愛知県岡崎市キョウセイドライバーランドで開催となった。これまでなら中部大会だが、今年から愛知・岡崎大会と呼称することになった。正直、正式名称を呼ぶのはちょっとめんどくさいけど、どんぶりで中部と呼ぶより、都道府県自治体名を大会名として、より地域に密着したトライアル大会にしたいという意向だというからすばらしい。

となると、愛知・岡崎大会だけじゃなくて、三重・四日市大会とか岐阜・土岐大会とかも開催して、全日本選手権全戦20戦くらいになるといいなぁ。そういう将来構想があっての呼称変更だったら楽しい。

■国際A級スーパー

勝負は第1セクションでついた、といってもいいかもしれない。腕自慢のIASライダーが次々に5点となって、ここをクリーンしたのは氏川政哉と、もう一人武井誠也、二人だけだった。

セクションがことさらむずかしいということはなかったはず。土曜日の下見を終えて、すべてのセクションでクリーンができる神経戦、ということになっていた。それがふたを開ければ、いきなり第1セクションから5点ばかりが並んだ。

2023第1戦の黒山健一歴史的1戦。電動マシンをデビューさせた黒山健一

こんな中、ポジティブな5点を披露したのが、黒山だった。電気モーターを発動機とするマシンでの初めての全日本選手権出場は、多くの人に期待と不安を与えていた。黒山自身は何度かの世界選手権参戦で、このマシンの実力と今の時点での限界を見極めているようだが、必ずしもトライアルのスペシャリストではない開発チームも関係者も、お客さんそれぞれも、黒山が登場すると緊張感がぴんと一段高まるのがわかる。

第1セクションの黒山は、難所を渾身のトライでクリアした後、フロントを浮かせたまま岩に飛び移るポイントで失敗、前転するように5点となった。ダニエルをする際のトルクのかけ方がエンジンとモーターでは異なるのだろうが、マシン的に改善の余地があるのか、ライダーの慣れの問題なのかはさておき、マシンそのもののポテンシャルは第1セクションをクリーンする勢いだったことで、早くも証明ができてしまったように思う。第1セクションでの黒山はダニエルをしそこねて前転のような転倒に終わったのだが、これがマシン性能の限界でなく、実戦でのライダーの慣れによるものなのは明らかだった。

大会前、黒山は目標をSS進出と語っていた。ちょっと謙遜のような気もするが、まったくのニューマシンでなにが起きるかわからないから、このあたりが現実的な目標だったのかもしれない。まっしぐらに頂上まで登るヒルクライムの第6は、トライせずに5点をもらっていたから、セクション設定によってはまだ難所もあるのかもしれない。

それでも、これまでデモンストレーション(やイーハトーブなどのMFJ公認以外の大会にて)以外で電動マシンが走るのを見たことがない人がほとんどの中、全日本選手権の場でこれだけのポテンシャルを発揮できたのは大きな成果だったにちがいない。

結果、黒山は5位となった。SSが始まるまでは3位で、一時は2位の時もあった。終わってみれば3位とは1点差での5位だから、あと1点どこかでがまんできていれば(SS第2での2点が1点だったなら)TY-Eのデビュー戦は3位表彰台だったから、惜しかった、もうちょっとだった、という評価もあるだろうけど、やっぱりこの日については、上出来の5位だったのだと思われる。惜しいは惜しいけど、初陣で表彰台に上がってしまったら、あとは勝つことしか目標がなくなってしまって、しんどくなってしまうのではないかしら。でも開幕戦で表彰台目前の5位になってしまったら、ファンは初優勝が見たいと思い始めるでしょうね。

2023第1戦の氏川政哉開幕戦勝利。氏川政哉時代の始まりか?

黒山とTY-Eの話でいきなり1日が終わってしまったみたいになったが、この日の主役はまちがいなく氏川政哉だった。1ラップ目前半で氏川は3点ほどのアドバンテージを築き、1ラップ目後半でちょっとミスが続いて黒山に1点差まで迫られたが、その他のライバルには5点内外のリードを保ち、さらに2ラップ目にリードを広げ、SSまでには8点差を築いた。SSを前に8点差は逆転の範疇ではあったが、SS第1で自分も含めてライバルが5点となって、事実上勝負は決まった。IASデビューから初優勝までは5年を費やした氏川だったが、2勝目はそのわずか2戦後に勝ち取った。

シーズンオフに1ヶ月半のスペイントレーニング。まったく歯が立たない猛者との練習、スペイン選手権では実力伯仲のライバルとのトップ争いも経験し、充実の修業を終えて帰ってきた。すぐに結果が出るものだろうかとも思ったが、氏川の走りは第1セクションからちがって見えた。

ただし本人は、今回の結果にはまだまだ不本意な面があるようで、もっともっと強くならないといけないという。下見の時点では、1ラップを通じて多くても10点以内とふんでいた。実際の減点は倍以上だったから、氏川の描いた理想の展開とはかけ離れた結果だったということだ。今回はライバルも完調子とはいえなかった。好調なライバルに勝利するには、1ラップ10点で、トータル30点以内くらいでなければいけないということなのだろうが、その理想に近づくことはできるだろうか。

2023第1戦の小川友幸かつてない不調といいながら2位獲得の小川友幸

今回はかつてないほどに不調だったと語るのが小川友幸。自ら、らしくない失敗がたくさんあったと語る。特に、スタートでリヤタイヤを滑らせて加速できない小川のライディングは、なかなか見ることがなかった。というか、初めて見る不調ライディングだったかもしれない。かつてない、というのもそのとおりかもしれない。

ところが、それでも順位の低迷を最低限に抑えてしまうのが、チャンピオンの戦い方だ。勝ちを狙う感じではなかったが、表彰台争いには加わって、最後にはきっちり2位のポジションをキープ。SS第2では優勝が決まった氏川に先がけてクリーンをしてみせた。1年を通じて、常に勝てるならそれに越したことはないが、実際には勝ったり負けたりしながらチャンピオンを争っていく。そんな流れ的には、今回の小川の2位は悪いものではない。だいたい例年、小川の開幕戦はよろしくない。10連覇の小川友幸の開幕戦を見てみれば、勝利はたった3回しかなかった。小川はきっとここから修正して、強いチャンピオンの走りを取り戻してくる。今年のタイトル争いは、いつになくおもしろくなりそうだ。

2023第1戦の野崎史高最後に表彰台を獲得した野﨑史高

3位野﨑史高は、これまでのチームが解散することになって、チーム作りから始めるシーズンインとなった。メカニック、そしてアシスタントには成田亮がつくことになった。2位の小川と9点差、最後に黒山を逆転しての3位表彰台獲得だったが、エンジンマシンに乗る野﨑としては、氏川と小川友幸に勝る順位を得なければいけない。開幕戦については、最後のSS第2をきっちり1点で抜けたことで、5位から一気に3位に浮上した。このSS第2は大金星だったが、SSまでの点差をぎりぎりに抑えていなければ得られなかった3位入賞だ。

2023第1戦の柴田暁いいところはあるも、なかなか1日を通じて好調がキープできない柴田暁

柴田暁、小川毅士の二人は、第1、第2とスタート直後に5点を連発して出鼻をくじかれてしまった。柴田はそれでも途中復活して途中3位のタイミングもあった。さらにSS第1ではただ一人2点で抜けて、久々にSS男の異名を思い出させてくれた。それでも、最後にクリーン数差で表彰台を野﨑に譲る結果になってしまった。表彰台までのあと1点は、どこにでも転がっていたけれど、それだけに1点を減らすのはむずかしい。

2023第1戦の小川毅士2ラップ目には復調したが1ラップ目が痛かった小川毅士

毅士は序盤の連続5点の後、そのまま5点連発の悪循環に陥ってしまった。1ラップ目は暫定8位と厳しい戦いになった。2ラップ目のスコアは27点で2番手相当だったのだが、いかんせん1ラップ目が悪すぎて、6位まで順位を戻すのが精いっぱいだった。

7位の武井誠也は、氏川とともにスタート直後の第1セクションをクリーンしたたった2名のうちの1名となり、1ラップ目は6位につけたものの、結局小川毅士に14点差の7位となった。武井に6点差で8位に甘んじたのは、ホンダに乗り換えた久岡孝二。マシンの完熟がまだ完全ではないのか、久岡の本調子はもっと高いところにあるはずだが、その本調子がなかなか出てこない。

平田雅裕が自己最高位の9位、久々にIAS登場の田中善弘が10位で最後のSS進出者となった。

ヤマハ4ストロークにマシンをスイッチした濵邉伶はSS進出まであと4点の12位。磯谷兄弟は今回は弟の郁が13位で兄伶が14位。ふたりは同点でタイム差による順位決定だった。

初めてIASを走った福留大登はオール5点で最下位の15点。ここから難セクションにからだを慣らして進むべき第一歩を切った。

■国際A級

IAS経験のあるトップライダーと若手が高度なセクションで競い合うのがこのクラスの特徴だが、今回はその通りの顔ぶれの表彰台となった。

2023第1戦の加賀国光マシンとクラスを変えての緒戦で勝利の加賀国光

優勝は加賀国光。マシンをヴェルティゴにスイッチしてその初陣で勝利を飾ることになった。序盤連続5点で万事休すと思いきや、その後の6連続クリーンはさすが。今大会クリーン13は出場者中の群を抜いている。

2023第1戦の本多元治2点差で2位となった本多元治

2位は本多元治。本多は昨年3戦に出場、優勝1回2位2回の好成績を挙げている。ちょっと調べたら、本多は2018年に6位となった記録があるも、それ以外は出る大会、必ず表彰台を獲得している。その強さは相変わらずであることを証明した結果だ。

2023第1戦の黒山陣自身2度目の3位入賞の黒山陣

優勝、そしてチャンピオン獲得と宣言した黒山陣は3位。加賀、本多より5点が一つ多かったのに加え、細かい減点も多かった。優勝争いから10点差をつけられてしまったが、1位から5位まで、黒山以外はみんなIAS経験者で、IAチャンピオン経験者ばかり。その中でこの成績は大金星といえるも、それでよしとする黒山家ではない。

その他若手は、浦山瑞希(シーズンイン直前にマシンをホンダに変更。乗ったのはたった4回ほどだという)が12位、高橋寛冴が13位、宮澤陽斗が15位。ルーキーの藤堂慎也と吉本由輝は24位と25位だった。

■レディース

2023第1戦の小玉絵里加新しい体制での開幕戦勝利、小玉絵里加

今年のレディースクラスは、なかなか実力伯仲のすごいことになっている。

1ラップ目のトップは山森あゆ菜だった。5点なし、減点15点。これに続いたのが小玉絵里加。5点一つの減点16点。さらに楠玲美と中川瑠菜が21点で続く。

2023第1戦の楠玲美ゼッケン1番をつける楠玲美は2位となった

2ラップ目、山森が減点を増やし、楠、中川が調子を上げてきた。中でも中川がいい。第9セクションまでを6点と、ここまでのベストスコア。しかし中川は、第11で5点となって最終セクションへやってきた。すでに楠は38点でゴールしていて、山森は最終セクションで5点を取って39点でゴールしていた。接戦だ。楠は減点速報を見ながら、まだワンチャンあると希望をつないでいた。

2023第1戦の中川瑠菜上位3名が同点の中、中川瑠菜は3位。

ゴール時間は迫っている。まず中川がトライ。じっくり下見をした甲斐あって、見事なクリーン。続いてトライした小玉は、最後の最後で5点となった。アシスタントを務める藤原が、パンチをもらって早くゴールするように指示を飛ばす。

はたして減点は、中川32点、小玉34点、楠38点、山森39点。しかし中川と小玉にはタイムオーバーがあった。中川6点、小玉4点。これを足すと、なんと1位から3位までが同点に並んだ。クリーン数は、小玉7、中川6、楠5。勝利は小玉に決まった。

昨年、西村亜弥が欠場してから以降、毎戦勝者が異なっていたレディースクラスだが、2023年はまず小玉が1勝。参加ライダー中、最初に2勝めを上げたライダーとなった。

■国際B級

2023全日本開幕戦の永久保圭デビュー戦で6位の快挙。永久保圭

実績豊富なベテランも多い中、若手のがんばりも目立っている。若さの筆頭は静岡の永久保圭。去年、IAでチャンピオン争いをした永久保恭平を父に持つ、こちらも血統書付。これがデビュー戦の11歳で、全日本のIBクラスはまだ荷が重いかと思われたが、なんの見事6位入賞を果たした。でも本人は6位では不満そうだった。

2023第1戦の神長叡摩オープントロフィー125で経験を積んで全日本デビューした神長叡摩

栃木県の14歳、神長叡摩(えみ)もポイントをゲット。オープントロフィー125で全日本の舞台を経験したことはあるが、今回が正式デビュー、8位と同点同クリーン数の9位に入った。

2023第1戦の村田隼いきなりチャンピオン候補の村田隼

優勝は、20歳ながら今回が全日本デビュー戦の村田隼。大ベテラン村田慎示を親に持ち、自転車トライアルで腕を磨いたものの、オートバイのデビューは遅かった。それでもいきなり強さを発揮し始めたのはさすがだ。

2位に入ったのは関東の一推し小原諄也。1ラップ目の同点トップから、2ラップ目の4点差で全日本勝利を逃すことになった。

2023第1戦の小原諄也関東選手権では連勝している小原諄也

3位表彰台を獲得したのは、このクラスの参戦実績も長い新井昭多だった。ポイントランカーとなって5年目。表彰台獲得は、これが初めてだ。

2023全日本開幕戦の新井昭多3位表彰台獲得の新井昭多

中部ブロックでの全日本では、国際B級をAグループ、Bグループに分け、最初にトライするセクションを分散させることで渋滞解消を狙っている。これまではゼッケン順にクラス分けがされていたが、今回はスタート順の1番がAなら2番がBと、分け方がちょっと変更になった。従来の分け方よりこちらのほうが選手同士の公平性という点で長けていると思われる。