春になったと思ったら、いきなり夏日です。トライアルGP日本大会はちょっとしか暑くなくて、よかったよかった。

氏川政哉、ついに優勝する

氏川政哉が全日本選手権初優勝。2017年IAチャンピオン、IASを走って5年目、ホンダのファクトリーマシンを得て2年目にして勝ち得た勝利だった。

SSを逃げ切った氏川政哉

久々に、コロナ禍による中止や延期のない2022年シーズン、全日本選手権は全8戦が組まれ、その第7戦が10月9日、和歌山県湯浅町湯浅トライアルパークで開催された。近畿大会は2020年は延期の末に最終戦として開催されたが2021年は中止の憂き目にあっていて、湯浅での全日本開催は2年ぶりとなる。

セクションはむずかしめだった。リザルトの、クリーンの数を見るとそれがわかる。小川友幸のクリーンはひとつしかなかった。小川としては、特に調子が悪かったわけではないというから、なかなかクリーンさせてもらえるセクションではなかった、ということだ。

第1セクションから、クリーンしたのは野﨑史高のみだったが、誰かが際立って好調という感じではなく試合は進んでいく。セクションが進むに従い、今度は抜け出すことすら難しいセクションになっていって、さらに時間も厳しくなった。今回は、昼過ぎから雨が降るという予報が出ていたから、それを見越して早回りをしようとしたライダーが多かったのだが、第3から第7までの沢セクションでの渋滞があって、なかなか先へ進めない。沢のセクションのむずかしさは、がらがらの岩場がマシンの動きを止めてしまうから、だったのだが(もちろんほかにもむずかしい要素はいっぱいある)それは5点になったライダーがマシンをセクション外に出すのにも手間取ることになった。今回は第2セクションがIA・IASのみ、第8セクションがその他のクラスのみとなっていたから、沢の入口の第3セクションはその合流地点となり、多くのライダーが並ぶことになった。渋滞は、ほとんどの場合、ライダーの回り方如何で回避できるということだが、今回ばかりは全セクションをトライしようとすると、少なからずの渋滞を覚悟するしかなかった。IASの後半5人ほどは、後半セクションを申告5点で抜けることになり、IBクラスでも2ラップ目はそこここで申告5点を受けるシーンが見られた。こういう勝負に打ち勝つには、トライアルのテクニックを磨く以外に、いかに申告5点を上手に使って試合を進めるかというマネージメント技術も重要になる。

今回、IASでは平田雅裕がオール5点、6人のライダーが3点一つで残りは全部5点となった。この6人は同点11位争いとなったので、競技時間が短いほうが順位がいい。どれだけ早く回れたかによって、11位でポイント獲得なったり、16位で無得点となったりした。藤原慎也は2点と3点がひとつずつあって9位相当のスコアだったのだが、1ラップ目最終セクションのパンチがなく10点。17位となってしまっている。

第1セクションを2点で抜けたのが大金星となって10位を得たのが磯谷玲。今シーズン3度目のSS進出となった。そして第1セクションを2ラップとも3点で抜けたのが村田慎示。村田は開幕3戦を最下位となって、北海道、CTJと欠場、第6戦中国大会でポイントを獲得すると、今回初めてのSS進出になった。

8位の武井誠也も抜けたのは第1セクションのみだった。1ラップ目の1点が効いてこのポジション。SSをのぞく点数を比べると、8位の武井が94点、SS進出ボーダーラインの10位が97点でポイント獲得圏ぎりぎりが98点、最下位が100点。いってみれば、11人による8位争いが展開されていたことになる。あとひとつ3点で抜ければ順位がぐんと上がるとじっくりトライしてゴール時間が遅くなり順位を落とした者もいれば、早めに作戦を切り替えてひたすら早く回って順位を上げた者もいる。トライアルはオブザベーションとタイムコントロールの勝負と定義されているのでこれはこれでありだと思うけれど、もし減点数を競うのがトライアル大会だとしたら、ちょっと首をかしげる大会となった。なにより、これは今年ずっと言ってるけど、お目当ての選手を待っているのに申告5点でいかれてしまうのは、お客さんに来てもらっているのに、本当に申し訳ないと思う。ほんとに、なんとかしてください。

ということで、今回のIASのトップ争いは、7人によって争われたといっていい。地元の廣畑伸哉は、SS前までは6位だった。前回中国大会では5位に入ったが、今回は小川毅士が帰国している。6位は前回並の金星だったのだが、SSを攻め損ねて柴田暁に逆転を許した。廣畑は2ラップ目の最終を見事にクリーン、最終をクリーンしたのは、このときの廣畑だけだった。SS第2は最終セクションを手直ししたものだったから、SSでも地の利が出るのではないかと思われたが、結果は逆に出てしまった。しかしこの若手は、上位陣に確実に迫っている。伸び代は、まだまだ無限大にありそうだ。

廣畑を最後に破って6位となった柴田は、しかしそれが目標ではない。2ラップして14個の5点は多すぎだった。必ずしも調子が悪いというわけではなく、いい調子で走っていながらスコアにつながらない。柴田が踏ん張りを見せたのは最後の最後のSS第2だった。ここで柴田はアシスタントを突き飛ばしながら(アシスタントに触れてバランス修正をしたら減点になるが、ぶつかっただけなら岩や木にぶつかるのと同じで減点にはならない)初めてクリーンをたたき出した。これで廣畑を逆転して6位を確保。本人は不本意だろうが、久々に発揮されたSS男のパフォーマンスだった。

5位となった野﨑史高

前回勝利で調子を上げている野﨑史高は、しかし今回は調子を上げられなかった。優勝することもあれば6位くらいまでには落ちてしまうこともある。二強とか三強とか言われた頃から少し時代が変わって、厳しい戦いが続く。今回の野﨑は、1ラップ目第1をただ一人クリーンしたはよかったが、結局クリーンは第1の2回だけで、全セクションの半分以上が5点という結果になってしまった。

ヨーロッパ帰りの小川毅士

小川毅士は、世界選手権から帰ってきての参戦。ちょっとした失敗で順位を大きく落とす、生き馬の目を抜くような戦いを経験した毅士が、その成果を見せることができるか。昼から雨が降るということで早めにトライする作戦をとった毅士は、第1、第2、第3の細かい減点、第4での5点の後、第5でクリーンをたたきだした。第5のクリーンは、このときの毅士が唯一。3位にも5位にも9点差の4位で、2戦を欠場しながらランキング6位はキープできそうな流れ。この波乱のない感じが、世界選手権と全日本の立ち位置のちがいのような気もする。

ランキングトップの小川友幸

最後の最後で3位に甘んじたのが、小川友幸だった。北海道以降、勝利に恵まれないチャンピオン。それでも中国、近畿と確実に表彰台を獲得していて、ランキング争いの優位は保ったままだ。調子は悪くなかったという小川だがクリーンがひとつは、SS第2での5点とともに、小川らしくないリザルトとなった。最終戦で小川が5位に入れば自力チャンピオンが決まる。5位は小川の今年のワーストリザルトだから、小川の連覇はまず確実と思われるが、最終戦にあたっては、まずタイトル獲得の5位以内を確実に目指すとした。華麗に勝利して有終の美を飾るのが小川のスタイルのはずだが、2022年、46歳になった小川のスタイルは、変わってきているのかもしれない。

SSで2位となった黒山健一

SSで小川を破って2位を獲得したのは、黒山健一だった。絶好調の黒山にある、黒山にしかクリーンできないというシーンは、今回は見られなかった。失敗もしながら、地道にセクションを走破して減点を抑えていった印象だった。黒山は10セクション2ラップのうち、クリーン2をマークしている。そのふたつは第1と第2でのひとつずつ。今回、クリーンを出せたのは上位7人で、合わせて16のクリーンがあった。そのうち2個がSS、9個が第1と第2でのもので、第3から第11まではみんなであわせても5個のクリーンしか出ていない。1ラップ目の後半、時間がなくなって申告5点が多かったこともあるが、今回はクリーンのむずかしいセクションだったのだ。

チャンピオン争いをする小川と黒山。黒山が2位で小川が3位となったことで、両者のポイント差は4点縮まって15点となった。黒山には大逆転チャンピオンの可能性があるが、そのためには黒山が勝利して、小川が6位以下となる必要がある。黒山が2位、小川12位でも黒山のタイトルは決まるが、小川の12位はまるで現実的ではないので、黒山はとにかく勝利が必要になる。黒山本人も、タイトル獲得の意味を超えて、来年へのジャンプボードとして、最終戦での勝利を切望している。

藤波由隆さんとの優勝ハグ

そして氏川政哉。氏川はこれまでも、何度も優勝候補として戦っていた。去年、ホンダマシンに乗ったその最初の1戦、九州大会でも、SSまではトップだった。最終戦中部大会でも、SSまではトップにつけていた。九州では小川友幸に、中部では黒山に逆転勝利を奪われている。氏川もまた、黒山や小川と同じように、セクション走破には苦しみつつ、減点を少しでも減らそうとがんばっていた。残念な失敗もあって、本人も悔しい思いをしながら、それでも第3ではこの日ただ一人のクリーンをたたき出すなどして光るところを見せた。1ラップ目は2位に3点差、2ラップ目は2点差。5点差でSSに臨む。

5点差は5点一つで逆転が可能だ。これまで2回SSで逆転されている氏川にとって、けっして安泰な点差ではない。SS第1は入り口奥の中空丸太でのUターンがまず難所。5点にはなりにくいも、クリーンはむずかしい。そして岩盤からの出口への登り斜面がくせものだった。氏川1点、小川1点、黒山2点。クリーン数は氏川が多かったから、この時点で氏川の勝利は確定的となった。

SS第2。第11セクションを改修して、後半部分に巨岩が控えている。そこが一番の難関だったが、小川は中盤の難所で5点となった。2ラップ目最終セクションでの小川は1点だったから、ここで5点は意外だった。黒山は柴田に続いてクリーン、最後の氏川は1点でここを抜けきった。3度目の正直で、SSを逃げ切って、念願の初勝利。優勝した氏川を待っていたのは、おじいちゃんの藤波由隆さんの涙のハグだった。

初優勝の氏川政哉