春になったと思ったら、いきなり夏日です。トライアルGP日本大会はちょっとしか暑くなくて、よかったよかった。

全日本中国大会、野崎史高、今季初優勝

国際Aスーパーだけのシティトライアル大会をはさんで、北海道大会から1ヶ月半後、全日本選手権は広島県に戻ってきた。優勝したのは野﨑史高。小川友幸が2位となり、柴田暁が3位。2セクションを残してトップだった黒山健一は4位だった。

広島での全日本は3年ぶり。中国大会は去年、おととしと岡山県での開催の予定が、2年続けて中止となっていたから、中国大会そのものが3年ぶりの開催となる。灰塚ダムトライアルパークは湿った地面ときつい斜面、そして人工的に配置された建築資材などが舞台となっている。傾向としては人工的セクションがメインとなるが、濡れると岩の表面がつるつるになる。その滑り具合は全日本の中でも筆頭といわれる。

今回、台風11号の日本接近に伴って、当日の雨は当然と目されていた。土曜日にウォーミングアップを終えて下見しているときでさえ、今でもこんなに滑るのに、翌日雨の中でどんなことになるのかと恐れおののくライダーが多かったから、まさか天気予報がここまで外れるとは、誰にも想像できなかったにちがいない。

雨は夜半に少し降って、会場を少しだけ濡らしたものの(それでも朝のうちにトライするライダーを苦しめるには充分だったが)、日が昇るにつれてさんさんと輝く太陽が濡れた岩の表面をきれいに乾かして、さらにはライダーの水分も奪っていくことになった。

狭くてトリッキーな第1セクション、5点続きの中、武井誠也が3点で抜け、シティトライアルで自身最上位の6位となった廣畑伸哉がクリーンすると、柴田暁、氏川政哉、黒山健一、小川友幸と、トップライダーはみなクリーン。難攻不落セクションが彼らの手にかかるとなんとも簡単セクションになってしまう。

ところがここで失敗してクラッシュ、5点となったのが野﨑史高だった。ライバルのみんながクリーンしたから、この失敗は幸先が悪い。

続く第2。泥沼からそそり立つ大岩にアプローチする設定だったが、こちらの方が抜け出るライダーは多かった。ここで小川、黒山が5点となる。小川の失敗は、ほかライダーがほとんど失敗することなく抜けている前半のポイントで、黒山はゲート接触の5点と判定された。黒山は、シティトライアルのあと、すぐにフランスへ向かい、フランスGPを走り、日本に帰ってきたばかりだった。かつては毎週のように日本とヨーロッパを往復していた黒山だが、40歳半ばの黒山には、なかなかの強行スケジュールだ。まだ時差ボケも抜けていない。

野﨑はこの第2はクリーンだったが、第3から第5まで3連続5点。ゲート接触などもあって、それぞれ先行きの暗い前半戦となった。

この序盤戦に比較的好調だったのが氏川政哉。第1、第2と連続クリーン下のは氏川のみで、第3セクションまでのスコアを見れば、氏川がトップで1点、続くは2点の廣畑。いつもとちがう戦いが見られそうな前半戦だった。

氏川政哉

しかし1ラップ目が終わって見ると、トップは黒山だった。黒山は5点がふたつ、2点のタイムオーバー減点を含んで16点。そして2位には18点の小川と、序盤の不調もなんのその、出るべきライダーが上位に進出してきていた。トップの黒山から5位の廣畑までは5点差におさまっていて大接戦。その一方、序盤がよかった氏川は5つの5点、さらに5点のタイムオーバーもあって、廣畑に10点差の6位。いよいよ初勝利が目前となっている氏川だったが、結果はまったく反対の結果となった。

SSで一気に4位になった黒山健一

2ラップ目、ほとんどすべてのライダーが1ラップ目から、大きく改善をしてきた。2ラップ目の勝負に残るには、このラップを一桁でまとめる必要があった。廣畑は20点、氏川は16点で、トップ5の戦いからは脱落した。2ラップを終えて、廣畑は41点、氏川は47点、計算上は逆転も可能だったが、SSでは廣畑がクリーンしたのに対し、氏川は丸太で滑ってマーカーを飛ばし、6位が決まった。廣畑は、前回の6位からひとつ順位を上げて自己最高位の5位獲得。今回と前回大会は小川毅士が欠席(世界選手権に出場している)。大阪の6位は自己最高位とはいえ、それまでの7位がその分繰り上がっただけと冷静な評価だった廣畑だが、今回氏川を破って5位となったことで、これでいよいよトップライダーの仲間入り、というところだろうか。

廣畑伸哉

2ラップ目に5点の素晴らしいスコアをマークしたのは、野﨑だった。1ラップ目に思うような戦いができなかった野﨑は、流れを変えるために早回り。これが功を奏した。ペースを早めたのはタイム差で勝敗が決まる結末を知っていたわけではなかったが、ライバルに先んじてトライする攻めの姿勢で、1ラップ目に5点となった第1、第3、第4と次々にクリーン。第5だけは5点となったが、それ以外はすべてクリーン。1ラップ目21点から、2ラップ目5点。驚異の追い上げとなった。

優勝の野崎史高

2ラップが終わってのトップは黒山で22点。黒山はただ一人、第5セクションを見事1点で抜け出している。これに続いて野﨑、小川、柴田が26点の同店で並んだ。同点の内訳は、野﨑と小川は3点の数まで全部同じで、競技の所要時間が少ない野﨑が上位となっている。柴田とはクリーン数差だ。勝利のチャンスがあるのは、4位までの4人のみだ。

SSは、ミスの出る可能性はあるものの、クリーンしなければいけない、という設定だった。みんながクリーンすれば、2位から4位までが同点というまれにみる大接戦の結果となる。

もしも(もしもとお化けは出ない)、小川が2ラップ目の最終セクションをクリーンしていれば、トップは小川のものになっていた。しかし小川は、珍しく集中力を切らすほどに、消耗していた。大阪で痛めた古傷をかばいながらのライディングは、思った以上に体力を消耗させることになった。マシンの仕上げも、完璧にはいかなかった。最終セクションは最後にはからだが動かなくなって、むなしく1分が過ぎる電子ホイッスルを聞くことになった。

2位の小川友幸

消耗していたのは、もちろん小川だけではない。これまでに見たことがない焦燥感を漂わせていたのが、黒山だ。集中力を欠くとかのレベルを超え、意識もうろうに近かったという。トップで10セクション2ラップを走りきったのは、集中力を越えた精神力というしかない。ところが。

SS第1。トップのみんながクリーンして、最後に黒山がトライ。しかし黒山は、なんとインのブロックに上れずに5点となった。なんという大波乱。しかしこれがトライアルだ。この時点で、黒山はトップから4位に転落。SSはまだ一つ残っているが、黒山が再び逆転トップに立つには、野﨑、小川、柴田の3人みんなに減点してもらわないといけない。

最後のSS。ふたつめの大波乱はなかった。柴田、小川、野﨑の順でクリーンした。野﨑は1分半のSSの持ち時間をたっぷり使い、疲労の極に達していた手を無理やり回復させながらアウトした。3人がクリーンしたことで、野﨑の勝利、小川2位、柴田の3位が決まり、黒山の4位も決まった。順位が決まってから黒山がトライ。1点を失いながら、最後まで走りきった黒山のトライで、中国大会は幕を下ろした。柴田は、ちょっと意外だが今回が今シーズン初めての表彰台獲得となった。

柴田暁

野﨑の勝利は、今シーズン初優勝。と同時に、2020年開幕戦以来、1年半ぶりの勝利となった。ランキングでも3位は河原図だが、黒山に6点差に迫っている。ランキングトップの小川は2位の黒山に19点差と、まだまだリードは圧倒的だ。