春になったと思ったら、いきなり夏日です。トライアルGP日本大会はちょっとしか暑くなくて、よかったよかった。

小川友幸の逆襲。2022全日本第2戦九州大会

開幕戦中部大会から3週間、全日本選手権は九州へとやってきた。会場となった熊本県矢谷渓谷キャンプ場は、6年ぶりの全日本開催となる。キャンプ場に設営されたセクション群は、むずかしいとの前評判だったが、前日には雨も降り、当日にも雨は少し残り、どうなることか、中部大会のサバイバルトライアルふたたびかと心配されたのだったが……。

明け方まで降っていた雨は、スタートの頃にはいったん止んで、その後昼ごろにぱらぱらとまた降ったのだが、表彰式が終わった頃には太陽も顔を見せるなど、いい天気とはいえないまでも、まずまず持ちこたえたといっていい天候になった。

とはいえ、雨に濡れた大地は、そこここで難しいコントロールを強いた。中部大会のように泥々ではないものの、それだけに、グリップすると思って走っていたところでとつぜん滑ってしまって失点するシーンが多々見られた。土、砂、石、岩、それぞれがそれぞれのグリップと滑り方をするところに、この大会のむずかしさがあったようだ。

1ラップ目、小川友幸は絶好調といってよかった。5点ふたつはあったが、その5点はどちらも1ラップ目には全員が5点になったもの。それ除くと4セクションで5点と、最小限点に近いラップ15点。2位につけた野崎史高に10点近い点差をつけて試合を折り返した。開幕戦は好調黒山健一の前に苦戦した小川だったが、今回はチャンピオンらしい走りをたっぷり披露してくれて、勝ちをもぎ取っていくだろうと誰もが思った。

2022全日本第2戦の小川友幸と第2戦九州大会の小川友幸とマインダーの田中裕大

黒山は、なにか歯車が噛みあわない。1ラップ目を終えて、黒山のポジションは6位。3位柴田暁、4位小川毅士、大健闘の吉良祐哉5位に続いている。不調を振り払おうと、セクションにはいるたびに集中をし直す様が見られたが、それが功を奏しているようには見えない。

どこのセクションのどこのポイントでも簡単に減点できた。今回、特に目立ったのはゲートマーカーの接触による減点だった。ゲートマーカーを飛ばして5点になるのはわかりやすい。加速ポイントでわずかに滑らせてラインがずれるのが大きな要因だ。そしてまた、ゲートマーカーはラインがちょっとでもずれると、さわってしまう。ゲートマーカーにさわったさわらないは、採点をむずかしくさせる要因の一つ。ゲートマーカーが牙をむいて待っているセクションは、ライダーとしては走りにくいしストレス満点だろうが、これもルールだから、ゲートマーカーとの戦いもトライアルなのだと思うしかない。

全日本九州大会の黒山健一開幕戦を勝利した黒山健一だったが

もうひとつ、ライダーはうまく走ったと思いつつも、タイヤがゲートマーカーに触れたとの5点をもらうケースも目立った。他のクラスのゲートマーカーは、タイヤで触れてもその後修正の必要がなければ減点にはならないが、自分のクラスのゲートマーカーは修正の必要がなくても、タイヤで触れれば5点になる。ゲートマーカーが飛び散ってくれればライダーも納得するし観客目線でも「あー!」とため息をつけるけど、わずかにゲートマーカーにタイヤが触れた場合はなかなか気がつけない。ライダーならずとも「なんで?」と問いただしたくなるものだけど、判定がくつがえることはまずない。そして今回は、全体的にこのゲートマーカーの接触が厳しく(正確に)判定されていた。トップ争いをするライダーの5点は、ゲートマーカーがらみのものが大半だった。

そのワナにはまったのが、2ラップ目の小川友幸だった。1ラップ目15点が、2ラップ目は28点。5点を3つ増やして、減点はほぼ倍増した。不調をきたしたという印象ではないものの、減点が増えているのだから、好調を維持しているとはいいがたい。2ラップを終えて、小川友幸の減点は43点。

全日本九州大会の小川友幸全日本九州大会の小川友幸

減点を増やした小川友幸に対して、2ラップ目に大躍進をしたのが小川毅士だった。小川毅士の2ラップ目の減点は、1ラップ目の小川友幸の15点に次ぐ16点。ゲートマーカーの毒牙にかからずに走り抜けたこともあるが、2ラップ目にも5点が大半だった第3セクションを1点で抜けたのも大きかった(この第3を抜けたのは、柴田暁と氏川政哉と小川毅士野3人のみ。ただし柴田と氏川は3点だった)。2ラップを終えて、小川毅士の減点は42点。わずか1点だが、トップは小川毅士で、最後のSS勝負に入った。

SSを前にトップに立った小川毅士SSを前にトップに立った小川毅士

計算上は2ラップ終了時点で4位の氏川まで優勝のチャンスはあったものの、今回のSSはふたつとも難度が高く、特にSS第2は全員5点ではないかとささやかれていたから、大きな逆転はほぼ不可能。事実上、優勝争いは小川毅士と小川友幸に限られていた。

1点差。小川友幸にとっては、もちろん逆転可能な点差だ。対して小川毅士としては、かなり厳しい。ヘビににらまれたカエルといっては言いすぎだけど、特に近年は、小川友幸がSSで逆転して順位を上げてくるケースが多々ある。そこが王者たるゆえんでもあるわけだ。

はたしてSS第1。7位でトライした柴田が2点で抜け、吉良祐哉(吉良は2ラップを終えて5位だった。これは快挙だ)5点のあと、黒山が1点と最後の踏ん張りを見せた。その後、氏川、野崎史高と5点。これで野崎以下の勝利はなくなった。

SS1の失敗で順位を落としてしまった野崎史高SS1の失敗で順位を落としてしまう野崎史高

SSのトライ順は、2ラップを終えた時点での順位で決まる。2位の小川友幸が先に走り、最後にトップの小川毅士が走る。小川友幸は3点。小川毅士には、これは厳しいプレッシャとなる。そして小川は、出口手前のポイントで失敗5点となってしまったのだった。

勝敗はまだ決まらない。1点差は変わらないが、トップが小川友幸に代わって、舞台はSS第2に移った。SS第2は、ひたすらひたすら登りまくるヒルクライムで、おそらくだれも登れないんじゃないかという前評判だった。

野本佳章(10位でSSに進出、SS第1を3点で抜けて9位に浮上していた)がバックフリップを見せてギャラリーをわかせた後、柴田がなんと1点でここを抜けていった。柴田のSSの強さといえば、かつては定評のあるものだったが、今回は久々の柴田ショータイムとなった。SS第1が2点、SS第1が1点。7位でSS入りした柴田は、4位までポジションを上げてTRRSでの2戦目を終えた。

不可能と思われたSS2を最初に1点で抜けた柴田暁不可能と思われたSS2を最初に1点で抜けた柴田暁

吉良、黒山、氏川と5点。ここでの黒山と氏川の5点が、柴田を4位に押し上げた遠因でもあった。黒山はここを3点で抜ければ、4位までポジションを復活させていたところだった。

野崎は3点でSS第2を抜け出たが、優勝争いにはすでに届かず、3位争いも決着している。野崎は開幕戦に続いて3位表彰台獲得だ。

小川友幸のトライ。小川は3点で頂点にたどりついた。クリーン数は小川友幸の方が多いから、小川毅士が勝利するには、クリーンか1点でなければならない。技術問題もさることながら、こういうぎりぎりのシチュエーションは、やはりこういう場面をどれだけ経験してきたかがものをいう気がする。しかもこのセクション、柴田、野崎が抜け出て可能性が出てきたものの、そもそもはみんなが登頂不可能とあきらめていたものだった。目の前で小川友幸が3点で抜けたから、同じことができるとは限らない。

全開で登るだけといえばそうなのだが、出だしの加速、途中の段差を飛ぶのかはわせるのか、全開のままなのか合わせるのか、細かいテクニックが必要になるのはもちろんだが、ぶっつけ本番で決めなければいけない。残念、小川毅士は途中の段差でからだが遅れ、わずかにフロントが浮いた状態で急坂にかかってしまった。あとわずかまで登りながら、5点。小川毅士2勝目は目もくらむ急坂とともに消え去った。

意識しないままにトップに立って、気がついたら2位になっていたという小川毅士。冗談まじりだが、本心にも思える。小川友幸は最後の最後まで事態を見きわめてやるべきことをやり抜いた。2ラップ目には陰りも見えたが、この日勝つべきは、やはり小川友幸だった。

ランキングでも、開幕戦2位、第2戦優勝の小川友幸がトップで、2位の黒山に早くも9点のポイントリードを築いた。野崎が黒山に4点差のランキング3位、さらに2点差で小川毅士が続いている。

■国際A級(IA)

今シーズンのIAは、IAS級大物の戦いになりつつある。今回は、前回の2位と3位の一騎打ち、そして前回通りの順番で、永久保恭平優勝、田中善弘2位となった。

3位は徳丸新伍。地元九州で初勝利を狙う、と宣言しつつ、なかなか実現しない。今回も、生粋の(?)IAライダー枠なら優勝だったのだが、こういう実力者を破って上位に進出するものが、未来の日本を担っていくのだろう。

期待の若手は、4位に福留大登、8位に中山光太、10位に黒山陣、13位に浦山瑞希。九州勢は、9位に西和陽、11位に松浦翼、12位に橋本隆之が入っている。

■レディース(LTR)

チャンピオン西村亜弥が2ラップ目の第4セクションで手を負傷するアクシデントに遭遇。残りのセクションは痛みと戦いながらのトライとなった。しかし結果は2位にほぼダブルスコアと圧勝。底力を見せつけた戦いにもなった。

2位は前回5位と不本意に沈んだ山中玲美。3位は山森あゆ菜が入った。山森は前回9位から一気に表彰台入り。今後の成長が楽しみな高校生だ。

■国際B級(IB)

辻本雄河が、初出場初優勝。辻本は昨年GC大会で昇格を決めたルーキーだが、OT125で何回か全日本の舞台を経験してきた。開幕戦は欠場していたが、病に感染しての病欠だったということで残念。しかしデビューウィンで、見事リベンジを果たした。

2位もGC昇格組の吉本由輝。3位には、開幕戦から好調の藤堂慎也。ランキングトップは藤堂だが、開幕戦を欠場した辻本が9ポイント差で2位に浮上してきた。

GC大会で昇格してきた黒山太陽(10歳)は、今回13位で初ポイント。