春になったと思ったら、いきなり夏日です。トライアルGP日本大会はちょっとしか暑くなくて、よかったよかった。

2022全日本開幕。そのサバイバルな1日

お天気ばかりは、雨の日もあれば晴れの日もある。ある程度は予測できることだけど、天気予報もあたることもあればはずれることもある。どんな天気でもスタートからゴールまできっちりとベストを尽くすこと、それがトライアルライダーに課せられた任務だ。

2022全日本第1戦の黒山健一
2022年の黒山健一は強い。今回の黒山は、強さを遺憾なく発揮した。

長期の天気予報では、日曜日当日は一日中雨だった。それが1週間前くらいになって、天気はなんとか持ちそうという予報になった。ところが直前にまた予報は悲観的になって、結局土曜日の夕方から雨が降り始めた。雨量はそんなに多くはなかったけど、地面を濡らし尽くすのには充分だった。雨は当日は止み、と思ったらまた降って、が一日続いた。雨ってのは、降らない方が気持ちがいいけど、降るなら降ったで、岩に乗った泥が洗い流されるくらい降ってくれた方がコンディションはいい。この日の雨は、おそらくもっともコンディションを悪化させる部類にはいる。

セクションは、全体にむずかしめだった。特にレディースがむずかしいかなと思われたけど、レディースについては、参加資格のある公式戦参加経験のあるNBライダーが走れる最低限の難度を保つか、少し背伸びした設定にするか、そのどちらにも大義名分があるから、なかなかこれだという結論が出にくい。今回は全体に少し背伸び設定だったかと思う。晴れていたらチャレンジフルな大会になったかもしれない。

されど、相対的に最も難度が高かったと思われるのは、おそらく最高峰クラスのIASだった。10セクションを2ラップ、それにSSが2セクション。今回は黒山健一が絶好調だった。1ラップ目の時点で、2位の小川友幸に15点の大差をつけた。黒山の今回の強さは、抜けられるところをとにかく抜け出た、ということだ。1ラップ目、10セクションのうち5点は3つ。

2022全日本第1戦の小川毅士10セクション2ラップを、クリーン一つ、5点19個。6位の小川毅士

今回のIASで際立っているのは、とにかくクリーンが出なかった、ということだ。黒山は1ラップ目にふたつ、2ラップ目に一つ、SSはふたつともクリーンして、全部で5つくリーンした。これはもちろんベストクリーン賞だが、これに続くのは野崎史高と小川毅士のふたつずつ。小川毅士は1ラップ目の第8セクションでひとつ、SS第1でひとつ。野崎はSSで2個クリーンを出しているが、10セクション2ラップではクリーンゼロだった。というか、SS以外でクリーンを出したのは黒山の3つと毅士のひとつだけ。なんともクリーンの少ないIASとなった(ちなみに相対的に難度が高かったレディースでは全部で10個のクリーンがあった)。

クリーンも少なかったが、それ以上にびっくりは5点の多さだ。今回の毅士は、1ヶ月間のヨーロッパ修業の成果を見せる場もなく、5点ばかり。2ラップで黒山以外でただ一人クリーンが出たのはすばらしかったが、それ以外は全部5点だ。10セクション2ラップで5点19個は毅士の他、野本佳章(3点一つ)がいる。野本はこの3点一つで10位に残ってSSに進出し、SS第2を3点で抜けて10位から7位までポジションをあげてみせた。なかなか強運だった。

不運というか、3点を3つもマークしながらSS進出を逃したのが久岡孝二だった。久岡は9セクションでのパンチミスに気づかず(パンチミスをしたのはオブザーバーだが、それを確認しないのはライダーのペナルティになる。ちょっとかわいそうだが、そういうキマリになっていて、本人も納得している。時間がない中、パンチを急いでもらって、きちんと確認しないまま次のセクションに向かったのがいけなかったようだ)1点差でSS進出を逃したのだった。順位は11位。

2022全日本第1戦の柴田暁
TRRSデビュー戦は5位。柴田らしい光るライディングはそこここで見られたのだが

そして久岡を最後に、12位以下はみなオール5点。オール5点の選手は各クラスともに存在するが、IAは3人、LTRがひとり、IBが二人と、それなりの人数だった。それがIASでは一気に8人がオール5点となった。

ルールでは、同点の場合はクリーン数が多いものが上位となる。クリーンが同じなら1点、1点が同じなら2点、と減点の数を数えいくが、オール5点だからすべて同点になる。この場合、競技時間が早い方が上位となる。あくまで結果論だが、こんなにオール5点が多いなら、第1セクションから最終セクションまで申告5点で駆け抜ければ、よい順位が得られる。さすがに、オール5点でSSに進出するライダーが現れるところまではいかなかったが、15位までのポイントを獲得するかしないかは、2ラップを早く回ったかどうかで決まることになった。

2022全日本第1戦の野崎史高
SSで逆転、最後の最後に3位表彰台を獲得した野崎史高

トライアルは採点の時間のスポーツだと定義されることもあるので、こういうトライアルもありだし、オール5点がいっぱい出そうだから早まわりして順位をあげるのも戦い方として正しいトライアル、出られそうなセクションをじっくり走って攻略して順位を上げようとするのも正しいトライアルだ。だけど、ゴールまで早く走った(だけの)方が評価されるというのはちょっと釈然としない。天気のいたずらといえばそれまでだけど、大会によってはいくつかのセクションでIAとIASを同じ設定にしたり、IAとIBを同じにしたりすることがある。そういう設定なら、あるいはオール5点は出ずに、また下位クラスにとっては上位クラスのうまさを(たとえ結果表を見るだけでも)思い知ることができたんじゃないかと思う。こういうのは、ほんとに結果論以外のなにものでもないのだけど。

2022全日本第1戦の氏川政哉
10セクション2ラップを3位で終えた氏川政哉だったが、SS第2で5点となり、表彰台を逃して4位に甘んじた。

今回のIASに5点が多いのは、残り時間が少なくなって申告5点でセクションを抜ける選手が多かったということもあった。トライしても抜けられる可能性は少なく、抜けられても3点となると、トライするメリットが最大2点になってしまう。こうなると、先を急いでタイムオーバー減点を減らした方が、ライダーとしては得策だ。

現状の全日本選手権、お客さんサービスがきちんとできている大会は多くないけど、その中で、中部大会はお客さん対応ができている大会の一つだ。世界選手権日本大会でもそうだけど、特別チケットを作って、場所とりをしないでも特等席で観戦するシステムがあったり、SSセクションを歩いて体験できるツアーがあったり、いろいろな試みが楽しい。

でもトライアル観戦のオーソドックスな肝心かなめは、やっぱり選手のトライを見ることだ。申告5点は選手の権利だけど、申告5点で観戦者にトライを見せないのは、主催者としては最大の失敗なのではないか。オール5点で早い者勝ちで順位が決まるのも何だかなぁとは思ったけど、これはルール通りだからまちがってはいない。でもお客さんの満足度はルールで決まるものではないから、ちょっと気になる。

2022全日本第1戦の小川友幸
序盤は不調が目立ったが、2ラップ目には復調。しかしそれでも黒山には届かなかった。小川友幸

中部大会について、SNSで検索してみても、申告5点で抜けられてしまってトライが見られなかったという愚痴はあんまり見られないのは、最後のSSで感動できたからかもしれないし、結果オーライかもしれないけど、申告5点は選手としてもしないですむならしたくないってのはまちがいない。

結果表には、申告5点でもトライして5点でも同じ5点と記載される。クリーンか1点かは結果表を見てわかるし、それでどんなトライぶりだったのか、なんとなく想像がつくけど、5点からトライぶりを想像するのはむずかしくて、もうちょっと試合の実態が見えるリザルトになればいいなぁという気もする。

ということで、ここからは、こうだったらいいなぁ、の妄想です。

2022全日本第1戦IAS表彰台
左から右へ、1位から6位。1セクション平均3点を切って回ったのは、黒山だけだった

試合時間が試合結果に反映される(こともある)のだから、リザルトには試合時間を記載してほしい。

今回は1ラップ目の持ち時間管理がなかった。1ラップ目の時間を管理されると1ラップ目に時間が足りなくなり、2ラップ目に時間が余ることがままあって、ライダーとしては2ラップトータルの時間管理の方がやりやすいらしい。それでも時間がなくなって申告5点をしなければいけないというのは、試合序盤、特に第1セクションでお見合いをするのが原因ではないか。これをなんとかしたいという関係者は多いのだけど、名案が出ないまま、なかなか改善されない。

そこで、申告5点を廃止する、というのを提案したい。セクションやりたくなくても、5点をもらうには必ず順番に並ばなければいけない。並ぶ時間がないといえば、見逃し10点をもらえばいい。待っているお客さんからすれば、たとえインポン(最初の岩で失敗する)でもトライしてくれるのと知らない間に行ってしまうのでは、満足度がちがう。5点と10点くらいの差をつけてもいいのではないか。

5点と10点では差がつきすぎる、もうちょっと負けてくれないか、というのは、申告8点でも申告7点でもいい。なんなら申告6点でもいいから、がんばってトライした5点と、トライしないでパンチもらったのとは、きっちり区別がつくようなルールにならんもんか。申告5点で時間合わせができないとなると、最初からセクションを早く回るという試合の取り組みになるかもしれない(ならないかもしれない。ならなかったらごめんなさい)。

どろどろサバイバルのトライアルもまたトライアルだから、セクション設定はこれでいいといえばこれでいいのかもしれないけど、特にIASのオール5点大量発生と申告5点の大量発生を見て、そしてリザルトを見返して考えてみました。

●MFJサイトのレースレポートhttps://mspro.jp/trj/2022/04/05/2022r1/