春になったと思ったら、いきなり夏日です。トライアルGP日本大会はちょっとしか暑くなくて、よかったよかった。

ガチンコ勝負でガッチの勝利

2010R6中部の小川友幸

最後の最後でつかみとった勝利。小川友幸、3勝目。

 北海道に続いて、小川友幸が勝利した。北最後の最後まで勝負の行方が分からない大接戦の末、北海道に続いて、最後の最後での大逆転となった。
 2位は小川毅士。毅士が2位に入るのは、これが初めてだ。小川友幸の最大のライバルである黒山健一は2ラップを終えてのスペシャル・セクションのひとつめで5点となり、最後の最後で優勝から滑り落ちて3位に甘んじた。
 A級は、98年型のベータ・テクノを持ち出した白神孝之、B級は宮本竜馬が前戦に続いて2連勝を果たした。
 中部大会はスペシャル・セクションを再導入したハシリの大会。今回はスペシャル・セクションを歩く観戦ツアーなども企画され、お客さんを楽しませようという趣向があちこちに生かされていた。


 4戦を終えて対戦成績がまったくタイ、振り出しに戻って5戦目で黒山健一が勝利、小川友幸が2位となって、チャンピオンシップポイント3ポイント差で迎えた第6戦中部大会。ここで黒山が勝てば、ポイント差は6ポイント以上となって、最終戦に向けてかなり楽な展開となる。対して小川友幸にすれば、ここで勝利することがタイトル奪還に向けてやるべき最小限のこととなる。
 セクションは、比較的簡単と予想されていた。簡単というと語弊がある。スーパークラスのセクションのことだから、どこででも簡単に5点にはなれる。しかしライダーの実力を考えれば、オールクリーンとはいわないまでも、ごく少ない減点で帰ってくるライダーがいてもおかしくない、そんな設定だった。
 第1セクションは、そのとおりクリーン合戦だった。トップライダーのみならず、今年3戦だけ出場した尾西和博や1年生ルーキーの宮崎航を含め、9人がクリーン。しかし次の第2セクションで、早くも試合が動き始めた。野崎が最後のポイントの4段岩の攻略に失敗すると、ここで黒山がカードをはじいて5点。もちろん、それ以前にトライしたライダーは、全員5点だ。
 ここで気合いを見せたのが小川毅士。ちょんちょっと惜しい2回の足つきでここを抜けてみせた。すると渋谷勲がターンざまに1回の足つきのみで通過して、これまた勝利への気迫をスコアで示して見せた。
 最後は小川友幸。小川のトライは美しかった。4段を止まることなく、ポンポンポンと抜けていく小川流。黒山が5点になっているだけに、ここでのクリーンは大きかった。
 ところが次のセクション、試合はまた動く。野崎が5点。野崎はこれでトータル10点で、早くも苦しい試合が予想されるようになってしまった。小川毅士は2点。毅士はこれでトータル4点。黒山はここで一気に挽回といきたいところだが、1回の足が出てトータルは6点。渋谷は華麗にクリーンで、トータル1点。そして最後は、やはり小川友幸。ここでクリーンなら、早くも試合の流れの大勢を決めることができたやもしれぬが、しかし5点。トップ渋谷1点、毅士4点に続いて、黒山に1点差で友幸(以下、毅士とまちがえそうなので、ガッチと称します)。たった3セクションにして、この日の乱戦模様が形作られていた。
 こうなると、この日のトライアルは我慢の二文字。特に6点を取って追う展開の黒山は、ライバルが減点しない限り勝ち目はないから、自分から足を出すわけにいかない。黒山は11セクションまでをすべてクリーンして、我慢のトライアルを敢行した。
 我慢ができなかったのは渋谷だった。4セクションで2点をとって3点としたところまではまだよかったが、ヒルクライムの7セクションで5点を取ると、8、9と連続5点。ギヤの選択に悩んだり特性の変調があったりという背景もあったが、勝利へのテンションに影響するところも大きかった。9セクションまでで18点は、この日のライバルに勝利するには、ちょっと減点が大きすぎる。
 ガッチが1点ついたのは9セクションだった。これで黒山とガッチは6点で同点。この時点で毅士はまだ我慢を続けていて4点。10セクションで1点とって5点としたが、それでもまだトップだった。

2010R6中部の小川毅士

いくつかの失敗で崩れ去っていく毅士像は、今日に限ってはまったく感じられなかった

 5点を取ったらおしまい、という空気の中、毅士が初めて5点を取ってしまったのは、11セクションだった。一気に崩れそうになるのを、チームががっちり支えてくれたという。トップからは退いたが、トップとはまだ4点差で、3位だ。
 その11セクション、ガッチもまた2点を加えて減点8となった。こうなると黒山の独り相撲かと思いきや、黒山は次の12セクションで5点。なんとこれで、トップはガッチの8点、2位に毅士の10点、黒山が11点で続くといういつもとは少しちがった試合展開となっていった。この12セクションでは、野崎、渋谷も5点。追い上げたいところでの5点で、彼らもなかなか波に乗れない。しかもこのふたり、ランキング3位を争うライバル同士なのだ。
 2ラップ目、第1セクションで小川が2点。第1は1ラップ目に12人中9人がクリーンしたセクションだったが、ガッチがミスをしない保障はない。これでガッチは10点。トップ3がたった1点差の中にいる。
 しかし続く第2セクション、黒山が2回目の5点。毅士も5点。ガッチは1ラップ目同様に美しいクリーンで、三度ガッチが試合のリーダーとなった。しかしこれも1ラップ目同様。第3セクションでガッチが5点。黒山も毅士もクリーンだから、第2セクションでの二人の失敗は帳消し。ふたりの小川が15点、黒山が16点。
 この頃、野崎と渋谷は少しずつ復調の兆しを見せていて、3セクションを終えたところで野崎がトータル20点、渋谷が24点。勝利はむずかしいかもしれないが、表彰台に届く可能性は小さくなかった。
 優勝を争うトップ3人も、表彰台に食い込みたい野崎と渋谷も、5人が1点もゆずれない厳しい試合展開。1ラップ目、渋谷と同点で手応えをつかみかけた柴田暁も、トップライダーによる2ラップ目の神経戦にはついていけなくなった。
 我慢大会で強かったのは、黒山だった。第2セクションでの5点以降、10連続クリーンをして2ラップを終了。トータルの減点は16。クリーン数は、ここまでで最多の22個となっていた。

2010R6中部の黒山健一

我慢のトライアルに勝利していたかに見えた黒山健一だったが

 野崎も第2、第3で1点をついた以降は、ずっとクリーン。2ラップ目2点は、この日のラップ賞でもある。2ラップともに2点なら、もちろん文句なくこの日の勝利者となっていた。
 ガッチは、第3での5点のあと、6セクションで1点。1ラップ目2ラップ目とも、8点ずつで2ラップを終えた。クリーン数は20。
 小川毅士は第4セクションで2点。しかしその後はクリーンを続けて、1ラップ目10点、2ラップ目7点、トータル17点、クリーン20で2ラップを終えた。
 13セクション2ラップを終えて、黒山とガッチが16点で同点。ただしクリーン数に2個の差があるから、同点のまま競技が終われば、黒山の勝利となる。暫定3位は毅士で17点。2ラップ目にずいぶん追い上げた野崎は20点。自力での表彰台はないが、残るスペシャル・セクション(SS)3セクションで毅士がミスでもおかせば、野崎が表彰台に上るチャンスはまだある。渋谷は2ラップを終えて29点だから、ちょっとチャンスがない。野崎との4位争いに勝利するのも、絶望的な状況だ。
 ガッチも、SSでの逆転劇はないものと思っていた。SSは、もちろん簡単ではないが、どちらかというと、お客さんに楽しんでもらうよう、ダイナミックなセクション設定が特徴となっている。ここでトップ争いを決着させようという主旨のセクションでは、なかった、はずだった。
 SSの第1セクションは、人工的に岩を組んだもの。どこの大会でもよく用意される、トップライダーにとっては走り慣れたシチュエーションの設定だった。ところが。
 ガッチがクリーン、毅士や柴田、田中善弘らもクリーンする中、渋谷、野崎が5点。さらには、なんと黒山健一も入り口の岩を攻略できずに5点となった。
 黒山にとって、これはもう致命的だった。ガッチとは5点差。残るはSSの2セクションだけ。毅士とも4点差。相手のミスを待つには、残るセクションはあまりにも少なかった。
 SSのふたつめは、やや難度のある斜面の岩を越えていったあと、一番下から大岩にジャンプしていく。キョウセイの名物セクションだ。たとえ5点になったライダーでも、最後の大岩は果敢にチャレンジし、観客の喝采を浴びていた。事前にこのセクションを歩いて実体験したツアー観客にすれば、彼らの技術と気持ちの強さに、あらためて感服したことだろう。
 勝負は決まった。最後のセクション、ガッチは硬い表情のままパンチを受けて、そしてうながされて眼下のギャラリーに大きく手を振った。
 勝負を決するためのSSではないと書いたが、その実、SSの3セクションをすべてクリーンしたのは、柴田暁、小川毅士、そしてガッチの3人だけだった。黒山、野崎、渋谷が5点ずつ、田中善弘が1点。田中の1点もまた、結果表に影響を与える1点となった。ここで足が出ていなければ、田中は柴田に1点差で、6位の表彰台に乗っていたのだった。ふたりは、ランキング争いでも同点となった。
 8位は西元良太。今回はアグレッシブなライディング。今シーズン3回目の8位入賞だ。9位は今シーズン2回目の野本佳章。ポイント獲得最後の10位には、スポット参戦の尾西和博。今シーズン3回目の参戦にして、3度目の正直となった。
 宮崎航は、ルーキー1年目にして、ここまで全戦ポイントを獲得していたが、6戦目にして、初めて得点圏外の11位。どうにも試合をまとめられなかった斉藤晶夫が12位となった。

2010キョウセイの表彰台

表彰台の、左から小川友幸、小川毅士、黒山健一

 黒山健一とのチャンピオン争いは、6戦を終えて3勝3敗。しかし今回黒山が3位となったことで、わずか2点ではあるが小川がリードをもって最終戦にのぞむことになった。ただし2点差だから、1位黒山、2位小川ではタイトルは黒山のものとなり、事実上、上位に入ったほうがタイトルを決することになる。
■国際A級スーパー■4位から10位まで

2010R6中部の野崎史高
2010R6中部の渋谷勲
2010R6中部の柴田暁
2010R6中部の田中善弘
2010R6中部の西元良太
2010R6中部の野本佳章
2010R6中部の尾西和博

左上から野崎史高、渋谷勲、柴田暁、田中善弘、西元良太、野本佳章、尾西和博

●リザルトは自然山リザルトページを=>自然山リザルトページ
 国際A級スーパー
 国際A級
 国際B級
 エキジビジョン125
●前日のインタビュー、試合後のインタビュー、ライディングシーン(少し)などの動画は「自然山YouTube」をご覧ください。
 小川友幸の試合後のコメント
 小川毅士の試合後のコメント
 黒山健一の試合後のコメント


■国際A級

2010R6中部の白神孝之

国際A級優勝、ベータテクノに乗る白神孝之

 ベテラン勢の善戦が目立つ今年の国際A級。今回は、さらにベテランの伏兵が現れた。加賀国光と白神孝之。どちらも元ブラック団のメンバーで、藤波貴久や黒山健一とともにトライアル修行に励んだ逸材。スーパークラスを走りながら、現在はトライアルの一線からは退いているが、久々の登場となる。加賀のマシンはホンダRTL250R。2ストロークマシンだ。そして白神のマシンは98年型のベータ・テクノ。白神は99年に国際A級チャンピオンとなっているが、これはそのときのチャンピオンマシンだという。自宅のガレージに放置してあったマシンを、半年ほどかけてじっくりレストア。かつての戦闘力をよみがえらせての出場だった。
 とはいえ、今国際A級を走るベテラン勢は、ほとんどがかつてスーパークラスを走ったことがあるトップライダーたち。試合から遠ざかっていた彼らが、そんなに簡単に勝てるとは思えない。白神も、目標は10位以内に入れればいいなぁ、というふうに考えていた。
 ところが始まってみれば、白神は9セクションまでを次々にクリーン。10セクション以降で多少の減点を喫するが、これでまず、10位以内の目標はクリアできたと思われた。しかも周囲から戦況を聞くと、ライバルの減点がそこそこに多い。白神のチャンスは、にわかにふくれあがってきた。
 1ラップ目、小野と寺澤が好勝負。真っ先にスタートした白神は、ゴールしてからライバルの帰りを待った。白神の減点は1ラップ目4点、2ラップ目も4点。2ラップ目にこれを上回ったのは、成田亮だけだった。
 13年前のマシンの快勝。トライアルはライダーの技術がなによりの武器でもあり、また13年前のマシンを現代の優勝マシンのレベルにまできちんと整備し仕上げてきた努力の賜物でもある。
 ちなみに国内競技にはホモロゲーションという制度があり、MFJの公認をとっていないマシンは出場できない。そしてベータ・テクノは、このホモロゲーションが切れている。ただしこの規則は、国内級の試合についての規則で、国際B級、国際A級については、どんなマシンでも出場できることになっている。

2010R6中部の成田亮
2010R6中部の小森文彦

国際A級3位の成田亮(左)と小森文彦



■国際A級4位から15位までの各選手

2010R6中部の小野貴史
2010R6中部の三谷英明
2010R6中部の滝口輝
2010R6中部の田中裕人
2010R6中部の寺澤慎也
2010R6中部の加賀国光
2010R6中部の岡村将敏
2010R6中部の藤原慎也
2010R6中部の永久保恭平
2010R6中部の佃大輔
2010R6中部の徳丸新伍
2010R6中部の北山将司

国際A級、4位から15位までの各選手。左上から小野貴史、三谷英明、滝口輝、田中裕人、寺澤慎也、加賀国光、岡村将敏、藤原慎也、永久保恭平、佃大輔、徳丸新伍、北山将司



■国際B級

2010R6中部の宮本竜馬

国際B級2連勝の宮本竜馬

 中国大会で、ようやく国際B級初勝利をあげた宮本竜馬が、中部大会でも勝利して2連勝を飾った。 宮本のかぶっているヘルメットは、5年連続チャンピオン山本昌也のカラーリングをうけついだもの。往年の名ライダーの強さも受け継がれてきたか。
 残り1戦、宮本のチャンピオン獲得の可能性はないが、国際A級昇格は確実圏にいる。
 タイトルは、今回3位の樋上真司が有力候補だ。

2010R6中部の山口
2010R6中部の樋上
2010R6中部の中田
2010R6中部の杉木
2010R6中部の平井
2010R6中部の小谷
2010R6中部の朝倉
2010R6中部の伊藤
2010R6中部の長嶋
2010R6中部の金沢
2010R6中部の鈴木
2010R6中部の岩田
2010R6中部の磯谷
2010R6中部の笹川

国際B級、2位から15位までの各選手。左上から山口雄治、樋上真司、中田雅之、杉木直志、平井賢志、小谷一貴、朝倉匠、伊藤紀夫、長嶋克哉、金沢清志、鈴木克敏、岩田悟、磯谷玲、笹川清司