春になったと思ったら、いきなり夏日です。トライアルGP日本大会はちょっとしか暑くなくて、よかったよかった。

ライア・サンツの復活戦は新旧チャンピオン、引き分け

藤波貴久が5年ぶりの勝利を得て、日本中が上を下への大騒ぎをしている中、こちらは8年ぶりの快挙を達成していた。ライア・サンツがトライアル世界選手権に復帰したというニュース。ガスガス広報からのリリース情報を交えてお届けします。

2106イタリア、ハロー、ライア

ライア・サンツはトライアルの現役時代、無敵を誇っていた。2007年一度だけ、世界タイトルをイリス・クラマーに譲ったが、この年は世界選手権が2戦のみとなり、第1戦に勝利したライアは第2戦でイリスに敗れた。神経戦の末の敗北だったが、タイトルはポイントが同点の場合は直近の試合で上位に入ったものとなっているので、優勝1回2位1回同士ながら、ライアはタイトルを逃してしまった。

このくやしい1年以外、ライアは13回の世界タイトルを保持している。そのままトライアルを続けていれば、アウトドアではトニー・ボウに勝るタイトルホルダーとなっていたはずなのだが、ライアは新たな挑戦の道を選び、そして二足のわらじを履くのがたいへんになってきたこともあって、トライアル活動は休止。これが2014年のことだった。

2106イタリアのライア・サンツ

以来、ライアはトライアル出身のダカールライダーとして名声を高めていったが、トライアルの現場に戻ってくることはなかった。ガスガスが会社丸ごと新規再出発をするにあたり、ダカールラリー出場についてライアと契約、あわせてトライアルにも出場する運びとなった。

ライアのあと、連続タイトルを奪い続けているのはエマ・ブリスト。イギリス人で、シェルコに乗る。2010年まではガスガスに乗る平均的ライダーだったが、2011年にオッサのライダーとなってからは、世界タイトルを狙わんとする強さが備わってきたライダーだ。しかしそれから3年間、ついにライアはエマに破れることなく、トライアルを卒業していった。

その頃のライアの強さを知っている者にとって、ライアが帰ってくれば勝負はライアでキマリだと思うにちがいない。しかしエマは、ライアが去ったあと、着々と女王の強さを身につけていった。ライアに負けていたエマとは、器がちがっているはずだ。

2106イタリアのエマ

そこは、ライアもよくわかっている。2021年になって、勝ち方を知っているのはライアではなく、エマの方だ。8年のブランクは、ライアのテクニックをどこまでスポイルしているものか。少なくとも、8年前と同じ、ということはないだろう。

本来なら、ガスガスと契約をした2020年に、トライアル復帰を果たすはずだった。しかし彼女はライム病なる病に冒され、2021年ダカールラリーへの参戦もあやうしの状況だった。なんとかダカールラリーを走り、それからトライアル復帰のための猛トレーニングを敢行して、ガスガスTXTとともにイタリアへやってきたのだった。

チャンピオンのエマと、復活戦のライアと、まずはスタート時間がちがう。ライアガスターとしてからエマがスタートするまでには約10分のラグがあった。二人は最大のライバル同士だが、互いの走りを確認するにはちょっと時間が離れている。

試合は、二人のチャンピオンのシーソーゲームとなった。第3でライアが1点をとるや、第2でエマが1点。第4では二人そろって5点となった。先行するライアがクリーンを連発していけば、あとからくるエマにも相当なプレッシャーになるはずだが、復帰第1戦のライアにはそれができない。

二人そろって減点したのは第4と第6の2セクションで、両者がクリーンしたのは第1、第5、第10のみ。残る7セクションは、どちらかがクリーンすればどちらかが減点する状況で、1ラップ終了時点では、ライア18点に対し、エマ15点。復帰第1戦で走りのかたいライアに対し、ライアの出現でいつもの強いスタイルを発揮できないエマ。その結果が、3点差での折り返しだった。

2ラップ目、ふたりとも、1ラップ目より減点をつめてきた。まず、二人とも5点がない。そんな中でも、ライアが調子を上げてきた。第6セクション以降はすべてクリーン。ただひとりラップ一桁減点をマークして試合終了。あとからやってきたエマが、最終セクションで2点。この2点で勝負がついた。2点差クリーン数同じで、チャンピオン同士の初の対決は、元世界チャンピオンに軍配が上がった。

2106イタリアのエマ・ブリスト

2日目、日曜日。スタート順は土曜日の結果にならったので、今度は二人が直接姿をみながらトライすることになる。しかもエマが先行、土曜日とは逆のパターンだ。前半、二人は土曜日と同様に一進一退の戦いを見せるも、第6セクションでエマが5点になると、1ラップ目はこの点差がそのまま結果になった。ライア10点、エマ15点。復帰戦で緊張していたライアが、いよいよ本領を発揮し始めたか。

2ラップ目、エマが現チャンピオンとしての意地を見せた。ライアが第4、第6と5点を喫したのに対して、エマには5点がない。2ラップ目のライアは3個の5点を取ってしまい万事休す。1ラップ目の5点のリードを返上してさらに大きなリードをとって、10点差でエマの勝利となった。久々の2日間にわたるトライアルで、ライアには疲れが出た。その点、エマには直近7年のチャンピオン経験があった。エマがライアを破ったのは、これが初めてということになる。

2106イタリアのベルタ・アベラン

二人の戦いに時に肉薄していたのはベルタ・アベランだった。1日目1ラップ目のライアに1点差、2日目のライアに1点差まで迫っていたが、両日ともに3位。ふたりに割って入るには、もうちょっと強さがほしい。

今回は、ライアの他、脳腫瘍から2年ぶりにテレサ・バウムが復帰しているが、まだまだ本調子には遠く、両日ともに13位に終わっている。テレサは2017年、最終戦でエマを破って優勝しているが、2019年から療養生活に入っていた。

ガスガスがリリースしたライアのコメントはこんな感じ。

2106イタリアのライア

「全体として、いいトライアルになった。トライアルの現場に戻ってきたことも、1日目に勝利したことも、素晴らしかった。ただ、ノーストップルールでうまく走るのは簡単ではなかったし、2日目は厳しい戦いとなったけれど、最後までがんばった。暑さもかなり厳しかった。2日目の1ラップ目はやってはいけないミスもあったけれど、結果リードしていたのでよかったと思ったが、2ラップ目のエマはうまかった。それでも、開幕の2戦はいろいろと大きな収穫があった。最も大きな収穫が、1日目の勝利ということだ」